Happy rainy day! 「うわっ、何だ!?」 「急に降ってきやがった!」 向かいからやってきた男二人が、慌てたように上着を脱いで頭から被り、脇を走り抜けていく。その様を横目で見送りながら、サンジは余裕の表情で手にしていた傘を開いた。 「さっすがナミさん」 「当然でしょ」 右隣でも傘が開き、その下から自信に満ちた笑顔が現れる。 サンジは食糧の買い出しに、ナミはログに関する情報を集めに街へと向かう際、彼女が傘を持って出た方がよいと告げたのだ。その時点では空はきれいに晴れていたが、サンジは迷わずその言葉に従った。結果は、この現状を見れば明らかだろう。 片手に傘を持つことも考慮して、買い込む食材も片手で持てる量に制限しておいた。本当に、優秀な航海士が乗船してくれているというのは有難い。おまけに美貌とスタイルの良さまで兼ね備えているのだから、サンジにとってこれ以上幸せなことはない。 「たぶん、このまま夕方まで降り続けると思うから、残りの食糧の買い足しは明日にした方がいいと思うわ」 「了―解。大丈夫、まだ数日分なら充分な量があるから、問題無いよ。ログが明後日に溜まるってんなら、出航当日に一気に買い足してもいいし」 「そうね。鮮度のことを考えたら、そっちの方が……――」 ふと、彼女の歩く速度が落ちた。つられるようにサンジも歩みを遅め、彼女の視線の先を追う。 「あーあ。せっかくの誕生日なのに、降ってきたー」 「別に関係ないでしょう?」 「関係あるよ!今日はみんなと外で遊ぶ計画だったのに!その時に僕のお祝いもしてくれるって……――」 「はいはい、だったらまた明日にでもしてくれるわよ。いいから早く窓を閉めなさい。雨が入ってきちゃうでしょ」 「今日がいいんだよぉー」 「今日は母さん達が祝ってあげるから、それで充分でしょう?早くしなさい」 ガタン、と家の窓が閉められ、中の会話は聞こえなくなった。 隣でふふ、と微笑ましそうにナミが声を漏らす。 「確かに、誕生日当日に天気が悪いと、普通はちょっと残念に思うかもね」 「まぁ、おれらの場合も、甲板で宴ができなくなるもんな。つっても、あのバカ共は、ラウンジでやっても充分ぎゃいぎゃい騒ぐんだろーけど」 容易に想像がついて思わず溜息をこぼすと、ナミがクスクスと笑う。けれど、不意にその視線が、雨に濡れる地面へと落ちた。 「でも――アラバスタだったら、雨も喜ばれるのかも」 「特に、“今日”は?」 彼女の言わんとすることが分かり、すぐさま問い返す。 一瞬瞠目したナミが、呆れとも感嘆ともとれる顔で笑った。 「さすが、女の誕生日はキチンと覚えてるわね」 「ナミさんやロビンちゃんと同じさ。あんなに覚えやすい誕生日、忘れるわけないだろう?」 「サンジ君だって、充分覚えやすい誕生日だと思うけど?」 「そう?」 今度はお互い、クスクスと笑い合う。 ――あぁ、やっぱり素敵なレディーが生まれた日は、穏やかで幸せな日だ。 「ビビ様、今日の広場での式典は延期となりました」 「そう、やっぱり……」 自室の窓際に立つ水色の髪に声をかけると、驚いた様子も無く、平素と変わらぬ声が返った。きっと、彼女自身も既に予想していたのだろう。ただじっと、一心に窓の外の景色を眺めている。 「あまり、残念そうではありませんね」 「貴方だってそうでしょう?イガラム」 笑い含みで返されたそれは、質問というよりも、むしろ断定で。 やはりこの王女には敵わない。思わず苦笑しながら、護衛隊長は彼女の足元に片膝を折った。 「この雨も、きっと貴女を祝福しにきたのでしょう。――誕生日おめでとうございます、ビビ様」 |
あとがき 本人の誕生日当日の話を書くのは、ルフィの時以来でした。といっても、本人以外のキャラの方が目立つ傾向にあるのが、拙宅の誕生日話ですが。(笑) 今でもたびたび、扉絵や本編でビビちゃんが登場してくれて本当に嬉しいです。ビビちゃん、ハッピーバースデー! |