See the light 新しい島に辿りついた初日。船を停泊させるとすぐさま「冒険だ!」と真昼の島へ飛び出して行ったルフィが、興奮した面持ちで戻ってきたのは、空が茜色に染まり始める刻限だった。 この船長にしては少しだけ、帰還が早い。普段ならば、夕日が水平線へと沈んだ夕飯時に戻ってくるというのに。この島には彼の思う様な「冒険」の対象がなかったのだろうか?だが、それならばもっと早々に飽きて船に戻ってきていそうなものだ。そもそも、彼は「興奮した面持ち」で戻ってきたのだ、彼をワクワクさせる何かに出会ったのは間違いない。 甲板に置いたデッキチェアで本を読んでいたロビンは、彼の行動の意外さに、思わず読みかけの本を閉じた。すると、ちょうど船縁から甲板へと着地したルフィとまともに視線が合う。 彼女が「おかえりなさい」と言う前に、少年が得意げに笑ってロビンの名を呼んだ。 「お前の好きな『遺跡』、見つけたぞ!」 少年の云う『遺跡』を前に、ロビンは思案に暮れていた。 「な?なんか面白くてスゲーだろ!?」 そんなロビンの気など当然知るはずもない少年は、嬉々としてそれを眺めている。 ルフィの案内に従い辿りついた先にあったのは、巨大な壁一面に刻まれた、単なる『落書き』だった。島の子供たちの遊びであったり、若者たちの悪戯であったり。どう見ても、歴史の本文(ポーネグリフ)どころか、石碑でさえない。壁を埋め尽くさんばかりの落書きの量には、ある意味圧倒されなくもないが、この場を『遺跡』と呼ぶにはあまりにも無理があった。 これがもし、幼い子供相手であったならば、ロビンは教えてくれた気持ちを尊重して礼を告げたかもしれない。だが、己より10歳近く年下とはいえ、ルフィは17歳だ。「石碑の古代文字」と、単なる「壁の落書き」との見分けくらいは、さすがについておいた方がよいのではないか。 気持ちはありがたいが、ここはやはり真実を伝えることにしよう。 ロビンは口を開きかけたが、先程の船上同様、またしても少年に先を越されてしまった。 小首を傾げながら、細いゴムの腕が壁の一点を指差す。 「なぁロビン、これは何を表してんだ?」 問われ、思わずロビンは息を呑んだ。針とまではいかないが、鋭い何かで軽く胸を突かれたような、そんな感覚。 ロビンのその変化に気付かない様子で、ルフィは独り難しい顔をして、茜色と2人分の影のコントラストに染まる壁に向かい合う。 「こっちのグルグルーっとしたのは、たぶん電伝虫だと思うんだよな。そんで、こっちのでっかい塊は、恐竜の肉っぽいだろ?だからこれは、電伝虫で仲間に『肉があったぞー!』って知らせてるところで……――」 ルフィの独り言のような解説を聴きながら、ロビンは知らず両目を閉じていた。 あぁ、そうだ。落書きといえど、そこには何かしらの『意味』がある。それは、単なる暇つぶしかもしれないし、何かに対する苛立ちかもしれない。あるいは、ルフィの言うような、子供たちが創り出した物語の一部かもしれない。 それでもそこには、刻んだ者の『想い』がある。それは、「石碑の古代文字」だろうと「壁の落書き」だろうと、同じなのではないか。 「なぁ、ロビンはどう思う?」 「ルフィ」 しゃがみ込んだまま見上げてくる顔に、ロビンは素直に微笑んだ。 「この場所を教えてくれて、ありがとう」 一瞬、少年の目が驚いたように見開かれる。けれどすぐにそれは緩み、「おう!気にすんな!」と嬉しそうに笑った。 |
あとがき この2人のコンビも好きです。一見「大人と子供」のようでいて、実はルフィに気付かされることが多々あるロビンちゃん…みたいな関係性、いかがです?(ロビンちゃんが大人の余裕でルフィをベッタベタに甘やかすとかも、それはそれで微笑ましい光景になりそうですが。) そんなロビンちゃんへルフィから「遺跡」を(別に誕生日当日とかじゃないけど)プレゼント!……なんて意識はルフィには絶対無いと思いますが(笑)、とにかくロビンちゃん、ハッピーバースデー!! |