Sure

 

 

「よかったわね」

 自分の半歩先を進む小さな背中が、あまりにもウキウキしているものだから。ロビンは思わずそう声をかけていた。

 軽い足取りは止めぬまま、丸い大きな目が振り返る。

「うん!みんなもう大丈夫だ!重傷だったソドムとゴモラも、あの様子ならきっと前みたいに元気になれるし。フランキー一家も嬉しそうだったな!」

 やっぱりあいつらも、ソドムとゴモラが大好きなんだなー。

 嬉しそうに笑う顔につられ、ロビンの笑みも深くなる。

 

 フランキーを助けるためにと、ルフィたちと共にエニエス・ロビーに乗り込んできた者達。そして、詳しい経緯は知らないが、彼らがルフィたちをサポートしてくれたのも確か。ならばロビンにとっても、彼らは感謝すべき恩人たちだ。

 そんな彼らが、怪我を負っているとはいえ無事に全員戻ってこられたのなら、やはりそれはロビンにとっても喜ばしい。

 

「報告したら、きっとみんなも喜ぶだろうなぁ。特にゴモラの眼のことは、サンジ達も目の前で見てて気にしてたし」

「そう。じゃあ、早く帰って教えてあげないとね」

 フランキー一家の診察が済めば、残る今日の用事は、必要な日用品を少し買い足すことぐらいだ。あのアクアラグナからまだ二日しか経っていないが、もう一部では復興が進み、小さい規模ながらもいくつか店が開かれている。当然ながら買い物客はそこに集中するけれど、今の時間帯ならば、並ぶ程ではないはずだ。

 少しでも急ごうかと歩を速めようとしたロビンはしかし、すぐに足を止めることになった。先を行くトナカイが不意に立ち止まったからだ。

「確かに、サンジ達に早く教えてあげなきゃいけないんだけど……」

「どうかしたの?」

 少し中腰になり、問いかける。

 トナカイが、窺うようにロビンを見上げてきた。

「なぁ、ロビン。本屋に寄ってもいいか?」

「本屋?」

 思わず小首を傾げる。

 不安そうに見えたため、どんなことを言い出すかと思えば。そんな顔をして了承を得る様な場所だろうか、本屋は。

「えぇ、構わないわよ。何か欲しい本でも?」

 問えば、サクラ色の帽子がフルフルと揺れた。

「ううん。今は、特に探してる本は無いんだけど……」

「けど?」

 

 

「今度こそ、ロビンと一緒に本屋に行きたいなって思って」

 

 

 促せば、トナカイは照れるように笑った。

 その顔に、思い出す。自分が仲間の前から姿を消したあの日。自分は直前まで、この船医と共にいた。本屋へ行こうと誘われ、頷き、けれど一緒に行かなかった。行けなかった。

 あの時、この小さな船医はどれだけ自分を責め、胸を痛めたことだろう。彼は何一つ、悪くなどないのに。

 

 黙ってしまったロビンに、トナカイは再び不安そうに見上げてきた。

「ダメ……かな?」

 問われ、ロビンは口角を上げる。

 答えなど、勿論決まっている。

「いいわね、行きましょう。私も丁度、探したい本があったの」

「ほんとか!?じゃあ、行こう!」

 ぱぁっと一瞬にしてトナカイの顔が輝く。そのまま嬉しそうに駆けだす背中を見ながら、ロビンはゆったりと微笑んだ。

 

 

 さて、“探したい本”は一体何にしようか。

 実のところ、新しく本を探す予定は無かったけれど、たまには思いつきで何か一冊選んでみるのも、悪くないかもしれない。

 

 

 

 

あとがき

 W7でサンジ君と一緒にロビンちゃんを探しながら、ずっと自分が怒らせたんじゃないかと気にしていたチョッパー。直前まで一緒にいたからこそ、彼女の真意を知る前も、知ってからも、責任を感じていた。というより、感じるなと言う方が無理な話で。

 救出後、サンジ君を押しのけ、ナミさんと一緒に真っ先にロビンちゃんに抱きついたのも、きっとそんな背景もあったんだろうな、と思ったり。

 今度こそ、彼女と一緒に本屋を楽しんでほしいなぁと思います。

 

 

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