「どうせ自分なんか」と言いながら、思いながら。

 それでも彼女を想い続けた自分は実は、諦めが悪い方なのではないかと思う。

 

 

 諦めは悪い方だけど

 

 

「高木君!」

 待ち合わせ場所としていた噴水前。呼ばれ、声のした方を振り返った。片手を上げた佐藤が駆けてくる。

「ごめん、待たせちゃった?」

 普段から鍛えているせいだろうか、息を少しも乱すことなく問うてきた彼女に、高木は首を振った。

 今は待ち合わせ時間の四分前、佐藤はちっとも遅れてなどいない。ただ単に、自分が早く来すぎてしまっただけだ。それもこれも、緊張して、居ても立っても居られなかったから。

 被疑者の尾行デートでも、佐藤の天然な勘違いでもなく、正真正銘、本当の意味での佐藤との初デート。緊張するなと言う方に無理がある。というより、そもそも。

「で?どこに行くの?」

 チラと見上げてくる佐藤は、彼女らしいラフな服装ではあるが、その顔には控えめながら化粧が施されていた。それによって益々、今日は本当に彼女とのデートなのだと実感させられる。

「ちょっと、高木君?何をボーっとしてるわけ?」

 目の前の綺麗な顔が怪訝そうなものに変わり、高木はようやく我に返った。ぼんやりとした思考のままで、思っていたことをそのまま口に出す。

「あぁ、すみません。何だか佐藤さんとこうしていることが夢みたいで……」

 相手は、何度も何度も「無理だ」と諦めかけた女性だ。ともすれば、このデートも夢オチなんてことになってしまいそうな気がして。そのことも、高木が待ち合わせに早く来た理由の一つだった。

 一方の佐藤は、一瞬きょとんとした顔をし。あぁ、こんな表情も可愛いなぁ、などと高木が暢気な思考を引きずっていると。

 ペチン!

「あたっ!」

 高木の両頬を、軽い痛みが襲った。佐藤が、両手で高木の頬を少々強めに挟んできたのだ。

 痛がった高木の反応に、佐藤はいたずらっぽく笑う。

「それはよかった。じゃあこれは、夢じゃないわね?」

 安心しなさい、と微笑まれ、高木は「やっぱり夢のようだ」と内心だけで苦笑した。

 

 

 自分は諦めが悪い方だ。

 けれど、まさかこんなに素晴らしい日が待っているなんて思いもしなかった。

 

 

 

 

あとがき

 4万打御礼文の一つでした。「as far as I know(管理人:悧子さま)」からお借りした、りがとう」お題のうちの一つ、「」です。

 この二人は何歳だと突っ込まれること請け合いですが、拙宅の高佐は基本的にこんな調子ですからね。(笑)まぁ、初デートなので、尚更初々しいということで。

 

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