馬鹿で暑苦しい午後 「馬鹿みたい」 頬杖をついたまま、ナミは眼下の光景を眺めて呟いた。 午後の太陽がギラギラと照りつける甲板には、二人の男。こんな暑い天気の日は、激しい運動なんてせずに、日陰で休んで水分補給をするのが正しい過ごし方だと思うのだが。そう、例えば今、パラソルの下でほどよい甘さのアイスティーを飲んでいる自分のように。 けれどその馬鹿な男たちは、これでもかと甲板を激しく動き回っている。というより喧嘩だ。いや、じゃれ合いか? 黒いスーツの脚が横から相手の頭部を狙えば、腹巻の男が身を屈めて避ける。避けながらも容赦なく繰り出された銀の一閃を、脚を返す反動を利用して革靴がやはり容赦なくたたき落とす。 決して中途半端な戦闘ではない。緑腹巻は本気で刀を振るっているし、渦捲き眉毛も本気で蹴り技をくりだしている。どちらも本気で相手に腹を立て、本気で打ちのめしてやろうと思っている。だからこそ余計、ナミは馬鹿らしいと思うのだ、この喧嘩を。 例えば昨日。「ヤケクソ」という表現がピッタリの様相でこの船を襲ってきた同業者たち。 見れば船もボロボロだったし、食糧や宝なんてものも殆ど持っていなかったのだろう。敵わないと知りながら、それでもこのまま海を漂っているよりは、一か八かで乗り込んだ……と、そんなところか。あくまでこちらの勝手な推測にすぎないが、きっと大きく外れてもいないだろう。 助けを求められていたのなら、また別の結果が待っていたかもしれない。が、向こうから戦闘を仕掛けてきたのなら、この船の男共は勿論それに戦闘で応える。結果は言うまでも無いとして、問題は、その戦いだ。 乗り込んできた敵はどう見ても、今のサンジほどゾロのことをイラつかせてはいなかった。なのにその敵は、ゾロの刀によってしっかりと斬られる。 サンジも然りで、昨日の彼は、敵に対して今のような漲る殺気など見せてはいなかった。なのに彼の脚は、次々に敵へと容赦なく叩き込まれる。 ゾロもサンジも大して腹を立ててはいないのに、“敵”だからというだけで昨日の海賊たちは彼らに斬りつけられる、蹴り飛ばされる。けれど、本気で腹が立ち、殺気を漲らせるほど苛立つ相手のことは、どちらも斬らないし、蹴り飛ばさない。 「ほんと、馬鹿みたい」 飽きもせずよく続けるわ。ナミは心底そう思う。 いつまで経っても、ゾロがサンジを斬りつける日はこないし、サンジがゾロを蹴り飛ばす日もこないのだ――彼らが“仲間”である限り。それを知りながら本気で殺(や)り合うなんて、馬鹿としか言いようがない。 ナミは手にしていたグラスの中身をストローで啜った。カラン、と氷が涼しげな音を奏でる。その涼しさに浸ろうと、ナミは視界から暑苦しい馬鹿な二人組を追いだした。 |
あとがき 船を壊すぐらいの喧嘩を展開する、19歳二人組。でも、相手だから本気を出せるし、自分も全力で応戦して防ぐ。ゾロもサンジ君も、他のメンバーに対しては結構大人な態度をとったりしますが、互いが相手になるとコロッとお子様っぽくなるところが好きです。 でも最近は少し、その関係も変化しつつあるようにも見えたり。成長していくのは嬉しくもあり、寂しくもあり。複雑な管理人です。(笑) |