願を掛けた日

 

 

「星祭り?」

 小狼が鸚鵡返しに問えば、年若い農夫が「あぁ」と頷いた。

「『流れ星に願い事をすれば叶う』。君たちも旅の人とはいえ、それぐらいは聞いたことがあるだろう?今日は一年に一度、この村に流れ星がたくさん降る日なんだ」

 こんな日に此処へくるなんて、君たちは運がいいな。そう言って、男は快活に笑った。

 

 

「うわぁー!」

 頭上の光景に、隣からサクラの弾んだ歓声が上がった。夜の闇の中でも輝きを失わない翡翠の瞳には、次々と光っては流れていく無数の点が映り込んでいる。

「サクラ!折角なんだから、見てばっかりじゃなくてお願い事もしなくちゃ!」

 肩に乗っていたモコナに言われ、「あ、そっか」と可愛らしく小さく口を開けたサクラが、祈りの形に両手を組む。が、眼を閉じる前にこちらを、そして背後を、不思議そうに見上げた。

「皆さんは、お願いしないんですか?」

 言われ、小狼はようやく後ろに佇む二人が祈りの体勢になっていないことに気づいた。自分同様、空を見上げてはいるが、ただそれだけ。両手を組むことも、瞳を閉じることもしていない。つまりはこの二人も、自分と同じ想いでいるのだろう。

 空から視線を外した黒鋼が、サクラを見下ろす。

「いや、俺はいい」

「オレ達三人はもう、既に次元の魔女さんにお願い事しちゃってるからねー」

 黒鋼の言葉を補うように、ファイが笑う。

 

『ここに来たということは、貴方達には願いがあるということ』

 あの日から、この旅の全ては始まった。

 そして異国の雨の中、自分たちは願った。各々の大切なものを差し出して。

 だからそれ以上願うことも無ければ、此処でまたそれを願うつもりも無い。

 

「気にしないでください、姫。あなたはあなたの願いを」

「でも、わたしだけなんて……」

 言いかけたサクラはしかし、ふと言葉を切り。思い直したのか、再び両手を組んで瞳を閉じた。

「皆さんの願い事が、ちゃんと叶いますように」

 呟かれたそれに、該当者である三人は目を見開き。けれど、一瞬の後に互いに顔を見合わせると、それぞれの表情で笑った。

 

 

 

 

あとがき

 4万打御礼文の一つでした。「as far as I know(管理人:悧子さま)」からお借りした、「ありとう」お題のうちの一つ、「」です。

 このタイトルを見て最初に浮かんだのが、あの侑子さんの店での旅の始まりのシーンでした。今でもあのシーンは、原作漫画でもアニメでも、強く印象に残っています。

 

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