飛行機雲 友人メガネ君に名を呼ばれ、おれは我に返った。 「ん?何、村田」 「何、じゃないだろ渋谷?ぼーっと空なんて眺めちゃって。その自転車でETみたく空でも飛びたくなった?」 村田がおれの押している愛車を指差す。雨の日も構わず乗ったこともあり、ちょっとサビが付き始めている代物だ。 おれたちは今、下校中。途中で偶然村田と出会い、一緒に帰っていた。 「いや、どーせ飛ぶなら満月の夜じゃなきゃ。って、そーいう夢のある話じゃなくてっ! ちょっと、考えてたんだよ。同じだなぁって」 「同じ?」 村田が眼鏡越しに不思議そうな目でおれを見る。 「うん。眞魔国と地球ってほとんど違うけど、空だけは同じだよなぁ、って。太陽も雲も、月も星も、変わらない」 何でおれは、こんなセンチメンタル的なことを言ってるんだろう。自分で自分に突っ込んでやりたかったが、思ってしまったのだから仕方ない。 だけど隣を歩く友人は、そんなおれの言葉をあっさりと否定してきた。 「そうかなぁ」 「え゛?」 「水をさすようで悪いんだけど渋谷、そうとも限らないんじゃない?例えば、あれ」 村田がついと空を指差す。つられてその先を目で追えば、青空に白く、細長い雲が流れていた。 「……飛行機雲?」 「そ。あれなんか、あっちには無いんじゃないの? ジェット機自体、存在しないんだから」 「あー、成る程ねぇ。って、ちょっと待て村田!確かにその通りだけど、それじゃ眞魔国とこっちの共通点が無いじゃん!?夢がなくなっちゃうぞ!?」 おいおい、先に夢のある話じゃないって言ったの、おれじゃん。 だけど村田は、そんな野暮なツッコミはしてこなかった。 「何言ってるのさ。ちゃんとあるだろ?こっちでも向こうでも変わらないもの」 「えっ、何?」 「君自身だよ、渋谷」 「……」 予想外の言葉を聞かされ、おれは一瞬呆けてしまう。 対する村田の口は、緩やかな弧を描いた。こうして微笑むとこの友人は、とても慈悲深い人物に見える。 「変わらないものが存在しないと思うのなら、君がそれになればいい。“こっち”にいようが“あっち”にいようが、君は君。渋谷有利に変わりない。そう在ればいいんじゃない?」 村田の言葉がストン、とおれの胸の中に納まった。ものすごく難しいと思っていた数学の答えが、実はとても簡単だったと分かった時のような感覚だ。 きっと今、おれはとんでもなく間抜けな顔をしているだろう。自信がある。 「やっぱり頭いいよな、お前」 「そう?ま、一応有名私立高に通ってるしね〜」 「あー、今のはそういう意味じゃなかったんだけど。っていうかそれ、おれに対する嫌味?」 「違うよ、失礼だなぁ。嫌味じゃなくて、プチ自慢」 「それはそれで嫌だぞ、村田」 そうだよな。 どこにいようとも、おれは、おれらしく。 |
あとがき いまだに ムラケン君のキャラが掴めない。どうでしょう、彼のイメージが壊れていないといいのですが……。 いつか、お笑い満載のムラケンズ漫才(?)を書けるぐらいにまでなりたいです。(笑) |