私にとっての「お姫様」は。 本当に幼い頃こそ憧れたけれど、その後は……特に、アーロンの一味に入ることになってからは、忌み嫌っていた。 お金持ちで、着飾って、周囲にちやほやと大事にされて育って、何の苦労も知らない。ピンチになっても、大人しくただ待ってるだけで、素敵な王子様が助けにきてくれる。自分では何もしなくていい。 何て甘ちゃんな存在だろう。 なのに、あの子は。 「姫」の定義 「すごい!ほんとに広ーい!」 目の前に広がった想像以上のその光景に、私は思わず歓声を上げた。 夢にまで見た、けれど叶うことなんてないだろうと半分諦めていた大浴場が、そこにある。さっき通ったばかりの図書室兼測量室も最高だったけれど、このお風呂場は更に想像を超えていた。 ウソップもようやくこの一味に戻ってきて、ルフィのお祖父さんの砲撃からも逃れた私たちは、早速この新しい船の芝生の甲板で宴会をすることになった。帰ってきたロビンとウソップ、そして新しく仲間になったフランキーとこの船を歓迎するために。 とはいえ、料理や飲み物の用意はサンジ君がしてくれるし(少なくとも私やロビンに手伝いをさせるなんてこと、彼がするはずもない)、テーブルだってゾロが一つ運んできただけで準備は終わり。だからサンジ君以外はみんな、それぞれ好きなように船内に散っていった。 私はさっきの廃船島では操舵に関する場所しか主に見ていなかったから、ようやく今、こうして船の各部屋を見て回っている。 一緒に巡りながら部屋のあちこちに隠された機能を説明してくれていたフランキーが、私の歓声に隣で誇らしげに胸を反らした。 「おうよ!このおれに、船に関する不可能はないぜ」 「ありがとうフランキー!あんた、変態の中では最高の奴だわ!」 「あったりめェよ!」 変態と呼ばれることをちっとも嫌がらないこの男は、更に嬉しげに胸を反らす。その様子に小さく笑いながら、私はふと、昔のことを思い出していた。 ついこの間のような気もするし、けれどずっと昔のような気もする、砂漠の直中にある宮殿での会話。 『こーんな広いお風呂がついた船、ないかしら』 『あるわよ、きっと。だって海はあんなに広いんだもの!想像もつかないような事が、海にはまだまだ沢山あるんだわ!』 「あったわよ、ビビ」 あんたの宮殿にあったほどのサイズじゃないけれど、大きなお風呂つきの船が。 あんたにも見せてあげたい、なんて思うのは、私のエゴかしら? 私の呟きに、隣の半改造人間は首を傾げた。 「ビビ?って、誰だ?」 「闘う王女よ」 多くを語らず、けれど的を射た簡潔な答えを返してあげれば、相手はますます首を傾げる。 「はぁ?闘う?そりゃ女兵士の間違いじゃねェのか?」 訳がわからないという顔をするフランキーが可笑しくて、私は素直に声を立てて笑った。 本当はきっと、フランキーの反応の方が一般的で、「闘う王女」なんて単語に慣れてしまっている私達の方が変わり者なんだろうけれど。 それでもやっぱり、不思議そうにするフランキーの方が私の目には変わり者に映って。だから私は、困ったような顔の彼を気にもせず、笑い続けてあげた。 そうよね、フランキー。私も昔は、姫なんてそういうものだと思ってたわ。 “昔の”私は、ね。 |
あとがき ビビちゃん誕生日話だと言い切ってみたり。(苦笑)本人の台詞は一つだけなのですけれどね。 サニー号の大浴場を見た時、管理人が浮かんだのは、ビビちゃんとナミさんのお風呂場でのあの遣り取りでした。ウソップが村で語っていたホラ話がどんどん現実になっていくように、キャラクターが過去に語ったことが、こうして後々反映される。こういうところもワンピの魅力かな、と思います。 遅くなってしまいましたが、ビビちゃん、ハッピーバースデー! |