「おい、小娘!それ本気で言ってんのか!?」 「当たり前でしょ。私のウェイバーを勝手に改造した罪は重いわよ?あと、その呼び方もやめて」 立ち寄った島の港町を、ナミはフランキーを引き連れ颯爽と進む。 目指す先は洋服店。購入するのは当然ナミの服で、支払いは全て背後の半サイボーグ持ちにするとたった今言い渡したばかりだ。 「何が気に入らないんだよ?白い木馬だぞ?下手すりゃ一種のメリーゴーランド気分じゃねぇか。トナカイだって目ぇキラキラさせてたってのに、何で女のお前が喜ばねぇんだ」 「メリーゴーランドって……、あのね、女が可愛い物なら何でも喜ぶと思ったら大間違いよ?私は前のシンプルなデザインで充分気に入ってたの。あと、そもそも問題はソコじゃないわ。所有者である私に、事前に何の相談も断りもなく改造したっていうのが、一番の問題なのよ!」 「バカ言うな、事前に知らせたらサプライズってもんがねぇーだろーが」 「そんな部分では要らないわよ、サプライズなんてっ……!」 思わず握り締めたナミの拳が震える。あぁ、会話をするだけでこんなに苛立ち、頭痛までするなんて。 なのに背後の男は、反省しないどころかあからさまな溜息まで吐く始末。 「浪漫ってもんがねぇんだなぁ、お前には。……まぁいい。ところでお前、服って結構な量買うつもりなんだろ?」 「当然でしょ」 どこか諦めたような物言いの男に、ナミは首だけで振り返りギロッと半目を向ける。 寧ろ今では、この男の財布の中身をほとんど搾り取ってやるぐらいの気でいた。仕方が無い、自分をここまで苛立たせたこの半サイボーグが悪いのだ。 ナミが誰にともなく己を正当化していると、フランキーが足を止めた。つられてナミも立ち止まると、男が立てた親指で、丁度目と鼻の先まできていた店を示す。 「だったら、その店で先に腹のコーラを補給させてくれ。もう残り半分になっててよ。どうせ、買った大量の荷物もオレが持たなきゃいけねーんだろ?エネルギー足してくるから、ちょっと待ってろ」 「……」 「何だよ、その目は?」 「言ってることは一応分かるけど……まさかそのまま逃げる気じゃないでしょうね?」 「どんだけ疑り深いんだ、てめぇは!?」 「失礼ね、慎重派なだけよ」 ナミが小さく鼻を鳴らせば、男は再び盛大に溜息をつき。顔を歪めて懐から財布を取り出すと、コイン数枚を抜き出し、残りは財布ごとナミに押し付けた。 「これでとりあえず文句ねぇーだろ?」 「いってらっしゃーい。私のために、しっかりエネルギー補給してきてね」 「……鬼か、お前は」 「何か仰いました?」 満面の笑みを保ったままで尋ねてやれば、フランキーは逃げるように店内へと消えた。 「まったく……」 ナミは両腕を組むと、フランキーの入った店の外壁に寄りかかった。 今日は天気がよく、日光により温まっていた壁の熱が、接した背中に直に伝わってくる。暑いというよりは暖かい。この調子ならば、これから購入する服が雨に濡れることもなさそうだ。 空を見上げながら、ナミが今後の計画に意識を飛ばしかけていると。不意に、彼女の右半身に影が差した。 「大丈夫だったかい、君!?」 「は?」 突然視界に割って入った見知らぬ顔に、思わず呆けた声が出る。 ナミの右側から覗きこむようにして現れたのは、洒落たシャツにジーンズ姿の男だった。ぱっと見ただけだが、どちらもおそらく高級ブランドもの。短めの茶髪はきっちりセットされており、顔もどちらかといえば美形と称される部類か。開いたシャツの胸元からは微かにコロンの香りもした。 ナミが驚いて瞬きを一度する間に、視界の男はまた口を開く。しかも今度は、勢いよくナミの両肩まで掴んでくるという、ちっとも有難くないオプション付き。 「今のうちだ、早く逃げよう!」 「ちょっと待って。色々と唐突すぎるわ。逃げるって、何?」 「決まってる、あの変態男からさ!さっきまで散々付きまとわれていたじゃないか!」 「あぁ……」 ナミはようやく合点が行く。 非常に残念な現実だが、ナミはすっかりフランキーの変態ルックにも見慣れてしまった。しかし、傍から見ればやはり、あの男の格好は変態に映って当然。 これは今後、フランキーと行動を共にする時は色々と気をつけなければならないな……などとナミが脳内メモに書きくわえている間にも、目の前の男の口は止まらない。 「怖かったろう?よく耐えられたね。オレなんかあんな変態、近づきたくもないよ。そもそも、恥ずかしげもなくあんな格好をできる神経が理解できないっていうか……あんなゴミみたいな奴、存在してること自体、理解したくもないよね」 両手をナミの肩から外して大袈裟に肩を竦める男は、そのせいでナミの右肩がピクリと揺れたことに気付かない。 「さぁ、早く。今のうちにオレと……――」 「確かに」 再びこちらへと伸びてきた男の手を避け、ナミは男を見上げた。 「あなたの言う通り、あいつは正真正銘の変態よ。何しろ『変態』って罵られて喜ぶぐらいの変態ぶりだもの。おまけにテンションは無駄に高いわ、断りも無く他人の私物を改造するわ、人の嫌がる呼び名も直さないわで、問題だらけ。ほんと困る」 立板に水でナミが語る内容に、男は一瞬目を剥いたが、すぐにまたナミの腕を掴もうと片手を伸ばしてくる。 「そう。それは想像以上の最悪さだね。だったら尚更、早くここから……――」 「でも」 ナミは今度は避けなかった。 避けずに、男の手を勢いよくはたき落とす。 「アイツは、自分が『変態』であることに誇りを持ってるの。それに、自分の手で生み出したものは一生胸張って愛し続けるって、仕事上のポリシーもちゃんとある。あなたはどうなの?あなたの誇りは?ポリシーって何?」 「……なっ、何を言い出すんだい急に?しかも、そんなものが誇りって……――」 「あるわけないわよねぇ?だってあなた、あいつが完全に立ち去ってから私に声かけてきたものね。『あんな変態には近づきたくもない』だったかしら?――要するに、あいつが私の傍から離れなかったら、どうせ私のこと見て見ぬフリして、助けようともしなかったんでしょ?」 ―― そんな腰ぬけのヒーロー面した男より、あの変態男の方がずっと「いい男」よ。 瞬間、男の顔つきが変わった。 傷つけられたプライドに表情が歪み、握り締めた右手を勢いよく振り上げる。けれどナミは動じない。それが更に男の怒りに拍車をかける。 「この……っ!ちょっと優しくしてやったら、付け上がりやがって!」 羞恥と怒りに震える拳が、ナミへと向かって振り下ろされた。が、それは中途半端な位置で止まる。 ナミと男の間に割って入った、水色の星。 ナミは余裕の笑みを更に深め、男は恐怖に顔を引きつらせた。 「ひっ!変態!」 「あぁ?今更おだてても遅いぜ、兄ちゃん?困るんだよなぁ、ウチの生意気航海士に勝手に手ぇ出してもらっちゃ」 人並み外れた太さの腕で受け止めた拳を軽く弾き飛ばし、フランキーが仁王立ちする。どうやらコーラの補給は完了したようだ。 フランキーの背後からヒョッコリ顔を出したナミは、怯えきっている男に向かって極上の笑みを浮かべた。 「ま、そういうわけなんで、一緒に行こうっていうあなたのお誘いはお断りするわ。……あと、アンタは一言余計!」 「いって!バカ、尖ったヒールで蹴るな、小娘!」 「小娘じゃない!」 「ごぐぁっ!!」 上等な男 まぁ本人には、死んでも 面と向かって言ってあげるつもりなんて無いけどね。 |
あとがき 冒頭のウェイバーの件は、46巻のサニー号完全図解を参考に。 なんだかんだ言っても、仲間のことが大好きなナミさん。全ては愛の鞭なんですよね、分かります。(笑) まぁ、誕生日話にしては、どことなくフランキーに可哀想な感じが漂っている気がしないでもないですが…でも「いい男」って言われてるし、大丈夫だよね!(笑)遅くなっちゃったけど、フランキー、ハッピーバースデー!! |