「あ〜あ。もう桜も満開ね」

書きかけの書類を中断し、窓の外をぼんやりと眺めた。

 

 

拍手お礼@

(佐藤+高木)

 

 

同じく隣でペンを走らせていた後輩が、その手を止めてこちらを見やる。

「もしかして、お花見に行きたいんですか?」

「ん〜。別に、お花見みたいに樹の下に陣取ってお弁当やお酒を……ってわけじゃないのよ?もともと、私たちにそんな時間もないしね。ただ、散っちゃう前に、花をちゃんと見ておきたいな〜って」

「花を……ちゃんと?」

不思議そうに言う高木に頷く。

「そう。桜って、ここから見るみたいに遠くから眺めるのも もちろん素敵だけど、間近で一つ一つを見ても、すっごく綺麗なのよ」

まぁ、毎年仕事でなかなかそんな風には見れないんだけどね、と付け加えると、相手は何やら考えるかのように、視線を宙に漂わせた。

「ちょっと、高木君?」

「え?あ、はい。仕事します、仕事」

別にそんな意味での声かけではなかったのだが、高木は慌てたように作業を再開する。

その態度が少々腑に落ちなかったが、佐藤も再びペンを握り直し書類に向かった。

 

 

 

翌朝。佐藤が一課に入ると、彼女のデスクの前に千葉が立っていた。

「あら、千葉君じゃない。何やってるの?」

「あ。おはようございます、佐藤さん」

声をかけると、彼は苦笑しながら頭を下げ、彼女の机上を指差した。

「すみません。綺麗だったもんで、つい見入ってて。佐藤さんも風流なことしますね〜」

「え?何のこと?」

心当たりのないまま、千葉の指差す先を追い……息を呑んだ。

「これ……」

 

佐藤の机の上には、水の入ったガラスのコップが一つ。

そしてその水面には、桜の花が五つ、浮かべられていた。

 

「あれ?これって、佐藤さんが飾ったんじゃないんですか?じゃあ誰なんでしょうね?僕なんかこんなことされちゃ、桜餅が食べたくなっちゃいますよ〜」

「……ほんと、誰なのかしらね」

堪えようとしても、頬が勝手に緩んでいく。

もちろん犯人が誰かなんて、とっくに分かっている。

「ありがとう……」

今はまだ空席の隣のデスクに向かって、佐藤は小さく呟いた。

 

 

 

 

 

あとがき

 06年の521日まで頑張ってくれていた(頑張りすぎて時期をすっかり過ぎてしまった)、桜の話です。短い話がなかなか書けなくて、難産でした。

勝手に桜の花を取ってきちゃダメじゃん……という突っ込みが聞こえてくるー。(苦笑)いや、拾ってきたんですよ、高木刑事は!

 

 

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