彼は、私に対してハッキリと警戒の色を見せてくれる。 本人はきっと知らないだろう。それが私にとって、どれほど有り難いことかなんて。 結局 サウスバードを探しに夜の森に入って、しばらく経つ。 持ってきた虫取り網の数に合わせて、私たちは三手に別れて探索していた。鳥の捕獲に虫取り網が有効なのか、という疑問はあったけれど、それは胸中だけに留めておく。いざとなれば、自分のハナハナの実の能力で捕まえればいいだけのことだ。 私と組むことになったのは、三刀流の剣士さん。探索中に出くわした関係ない大ムカデを討ち取る彼に「可哀想だ」と言えば、彼は不機嫌そうにし。更には、私のことはまだ信用していないとキッパリ言い放った。 彼がこれを知ったらきっと嫌がるだろうけれど、私は彼のような存在がいてくれることに心底感謝している。彼のように、私に対して警戒を抱いてくれる存在が。 可愛らしい羊の顔を船首につけたこの船のクルー達は、実に警戒心がない。初めこそ、慌て、罵られ、武器も向けられたが、その日のうちに大半は、私に対する敵対心が薄まってしまった。今となっては、この剣士さんぐらいだ、こんな鋭い眼光で私を見てくるのは。 だけど、だからこそ、私はつい忘れてしまいそうになる。この、どんな些細なことにも驚き、興奮し、楽しんでしまうクルー達に囲まれていると。自分は生きていることさえ許されないような女なのだと、ほんの一瞬だが忘れてしまいそうになる。本当にこの船のクルーの一員として楽しんでしまいそうになる。 だから、この剣士さんのような存在は必要だ。私を“現実”に引き戻してくれる存在が。 なのに。 「きりがねぇ!邪魔だぞ、おケラ軍団!おれに勝てそうか!?」 そう怒鳴る彼の持つ刀は、普段と逆を向いていた。峰撃ち、つまり相手を傷つけない側。 さっきの私の言葉を気にしてくれたらしい。思わず頬が緩んだ。 何の躊躇いもなく今来た道を戻ろうとするのも、注意したぬかるみに見事なまでにはまるのも、おケラ達に対する今目の前の光景も。可愛いったらない。 私を唯一現実に引き戻してくれる人が、こんなに可愛らしくてどうするの? 結局あの船のクルーたちは、船首の羊そのままに、温かくて優しくて可愛らしい、そんなメンバーばかりなのよね。 私に“現実”を完全に忘れさせないためには、不十分なくらいに。 |
あとがき おケラたちに峰撃ちを使っているゾロを見た時は、結構衝撃を受けました。「なんだかんだでロビンちゃんの言うこと気にしてるじゃん!」と。(笑)やっぱりゾロもいい人です。 まだこの頃は、ロビンちゃんも仲間に入ったばかりで、完全には溶け込み切れていない時期だろうと思うのですが。敵だった自分を、割とすぐに受け入れてくれたルフィたち。彼らのそんなあったかい言動に触れながら、当時のロビンちゃんの心境はどうだったんだろう……と思いながら書いたお話でした。 |