心で奏でて

 

 

 あの骸骨が仲間になるまでは……と言っても、それは実に短い間なんだが。おれはギターを弾けたから、たまに麦わらから弾いてくれとリクエストされた。宴会で特に多かったかもしれねぇ。麦わらは音楽が本当に好きみてぇだからな。

 だが、おれのその役もこれからは減るだろう。何しろ、本職の音楽家が仲間になったんだ。おれが船に関してクルーの中で誰にも負けない自信を持っているように、何事も、その手の専門家に任せるのが一番だ。

 何も一生ギターを弾かないわけでもない。自分にそう言い聞かせつつも、やっぱり少しだけ寂しい気持ちでギターの手入れをしていると、やけに細長い影がおれの隣に並んだ。

 ブルックだ。

 

「おや、それは貴方のですか?」

 おれよりも高い長身をこれでもかと折り曲げて、芝生であぐらをかいていたおれの手元を覗きこんでくる。

 こいつの目は眼窩だから分からないが、もし目玉があれば、それは丸く見開かれていたかもしれない。

「あぁ、まぁな。たまに即興で歌うのさ。おれにとっての感情表現の一種みたいなもんだ」

「それは素晴らしいですね!ぜひ聴かせてください」

 即座に請われ、おれは慌てて首を振った。

「いや、勘弁してくれよ!さすがにプロの奴に聞かせるような腕じゃねぇよ。おめェだってギター弾けるんだろ?おれのはほんとに自己流で、おめェみてぇに本格的にやってるわけじゃ……」

「関係ありませんよ」

 おれの言葉を遮るように、そいつは言った。

 優しい、けれど力強い口調で。

「確かに私、基本的に楽器全般できます。勿論、ギターもね。ですが、プロだとか、本格的だとか、そんなこと音楽にはちっとも関係ありません。大切なのは、その人がいかに音楽を愛しているかです。人を楽しませるにはまず、自分が楽しまないといけませんからね」

 言って、ブルックは小首を傾げた。微笑んだのだろう。実際こいつの表情が変わることなど無いんだが、おれは何故だかそう判った。

 おれが、小さなガキが必死の形相で作る玩具の小舟を微笑ましく思うように。メリー号の素人ツギハギ修繕を見て、胸が熱くなったように。決して上手いとはいえないそれらを愛おしく思えるのは、それを施した奴らの「心」が感じられるからだ。

 

「さすが、その道のプロは言うことが違うな」

 感心して笑えば、アフロ頭がフルフルと揺れた。

「いえいえ、そんなことありませんよ。というより、そうじゃなければ私が困ってしまうんです」

「困る?」

「ええ。『音楽は演奏者の気持ちが大切』。そういうことにしていただかないと、ガイコツが楽器を演奏するなんて、それこそただの恐ろしい光景にしかならないでしょう?私、演奏できなくなっちゃいます」

「っ!……」

 思わず黙り込んだおれの気を知ってか知らずか、隣の骸骨は「ヨホホ」と暢気に笑う。

「悪ぃ、嫌なこと言わせちまったな」

「いえ、とんでもない。それより聞かせてください、あなたの『心の音楽』を」

 さぁ、とその白くて硬くて細い指でギターを指差されれば、再び断るなんて出来やしない。

 おれも頷き、笑い、ギターを構えた。

「おう、それじゃあいくぜ?聞いてくれ、『キラリ 本職(プロ)魂』」

 弦を弾き、声で空気を震わせる。

 骸骨はおれの隣で楽しそうに体を揺らし。一番を歌い終わる頃には既に、甲板に出ていなかったはずの麦わらも、当たり前のようにおれ目の前に笑顔で陣取っていた。

 

 

 

 

あとがき

 この後、ブルックさんと一緒に二人で演奏するともっと素敵じゃないかと。

 拙宅のフランキーは、物思いに耽っていることが多いですね。大人ですから、たぶん色々と考えちゃうこともある……のかな?(苦笑)

 ブルックさんの描写、まだまだ慣れていませんが、彼のことも少しずつ書いていけたらと思います。

 

 

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