「どうぞ」と入室を許可する時点から、その日の村田は笑っていた。

 

 

拍手お礼E

(ヨザック+村田)

 

 

「閣下から預かってきた書類です」

 ヨザックが差し出せば、長椅子にもたれて紙を読んでいた少年が視線を上げる。

「あぁ、フォンヴォルテール卿ね。有難う」

 受け取りながらも、未だに村田の声には笑いが滲んでいる。当然、お庭番はそこに突っ込んだ。

「随分と楽しそうですね。そんなに面白いことが書いてあるんですか、その紙」

 指さしたヨザックに、ああ、と村田が笑う。

「面白いっていうか。つくづく渋谷には縁のない言葉だなぁと思って」

 言いながら、ペラ、と手にしていた紙をお庭番へ示す。けれどそれは日本語で書かれていて、ヨザックには読解できなかった。村田もそれは承知しているので、声に出してそれを読む。

「人生の意味を見つけるための逆説の十カ条」

「逆説?が、十個ですか?」

「そう」

 頷いて、村田は再び紙を自分の方に向ける。「例えば」と言いながら読み上げた。

「正直で素直なあり方はあなたを無防備にするだろう。それでもなお、正直で素直なあなたでいなさい」

「あぁ、なるほど」

 頷いたヨザックに笑い、村田はまた一つ読み上げる。

「人が本当に助けを必要としていても、実際に助けの手を差し伸べると攻撃されるかもしれない。それでもなお、」

「人を助けなさい」

 続くであろう言葉を先読みしてヨザックが言えば、「ご名答」と村田が満足げに笑った。

「確かに、陛下には不要かもしれませんね。言われる前からそういう御方ですから」

「だよね。……でも」

 そこでふと、村田は言葉を切る。その横顔に僅かに陰が下りた。

「多くの人間には、必要な言葉だ」

 呟くように言った少年に、ヨザックは一瞬、表情を変えた。

 けれどすぐにいつもの明るい調子で、

「あと、魔族もね」

と付け加える。対する村田も、一瞬だけ瞠目したが、

「そうだね」

といつものように笑い返した。

 

 

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★参考は、ケント・M・キースさんの「人生の意味を見つけるための逆説の10カ条」。結構有名なので、ご存知の方も多いかもしれませんね。

 

 

 

08827日まで頑張っていてくれた話です。

これまで拍手の話はギャグ傾向だったのですが、この回からはちょっと変えてみています。

 

 

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