「よくもまぁ、そのような格好で堂々と私の許へ来れたものだな」
「あらやだ。もしかして、コソコソひっそり、恥じらいながら来た方がよかったですか?」
「尚悪い」

 

 拍手お礼F

(グウェンダル+ヨザック)

 

 

 目の前に立つヒラヒラとした衣装を身に纏ったゴツイ男を、グウェンダルは冷ややかに睨め付けた。

 レースをあしらったいかにも女性用の服でも、肩から下のムキムキの腕を隠していないのは、やはりこの男が自分の筋肉を誇っている故か。
「私が言っているのは、お前のその格好についてだ、グリエ」
「やだわぁ〜、閣下ったら。そんな眉間に何本も縦皺つくっちゃって!あ、もしかして、可憐なグリ江と噂になっちゃったらどうしよ〜!っていうドキドキの、照れ隠し?」
「成程。お前は一度ギーゼラに脳を診てもらった方がよさそうだな」
「閣下!それはいくら何でもあんまりです!!グリ江泣いちゃう!」
「あぁ構わん。報告を済ませた後ならいくらでも泣け、自室で独りでな。だから今後は女装を解いてから報告に来い、いいな。さぁ、さっさと報告をしろ。調査結果はどうだった?」
 これ以上余計な言葉は挟ませまいと、捲し立てるように告げた。今更米神を押さえたりなどはしない。この部屋に入ってきた部下の姿を一目見た時点で既に、頭痛は始まっていたのだから。
 だが、次の瞬間に放たれた部下の台詞に、グウェンダルの頭痛は一気に吹き飛んだ。
 青の目にじっと見詰められ、小首を傾げたと思ったら、一言。
「何かありました?閣下」
「……質問をしているのは私だ、グリエ」
 揺れそうになった肩は何とか堪えたが、返答が一拍遅れてしまった。内心だけで舌打ちをする。
 けれどヨザックは小さく苦笑を零しただけで、すぐに淡々と調査結果を報告し始めた。だからグウェンダルも、視線は手元の書類に戻し、淡々とその報告を聞いた。



「なぜあんなことを訊いた?」
「はい?」
 報告が一通り済み。退出しようと背を向けた部下に、グウェンダルは問いかけた。
「訊いただろう、私に。何かあったかと」
 振り向いた顔が「あぁ」と頷き、言葉を探すように目を宙に泳がせる。
「今日の閣下は、やけにノリが悪かったというか冷たかったというか……。別に飴を貰った覚えは無いですけど、鞭は鞭でも、いつもはもうちょっと愛情のある鞭なんですよねー、閣下って」
 言って、ヨザックは笑った。
「何しろ閣下は、大本が優しい人ですから」
 思わぬ言葉にグウェンダルが瞠目していると、部下の口はどんどん回転していく。今度は明らかに口調も変わった。
「まぁ原因は、売り言葉に買い言葉でアニシナちゃんにちょーっとひどいこと言っちゃって自己嫌悪中、とか?」
「っ!?」
「はーい、今のは余計な一言デシタ。ごめんなサイ」
 米神に青筋のおまけつきで睨んでやれば、逃げるように部下は退室していった。
 パタン、微かな音を立てて扉が閉まる。
「まったく、あの男は……」
 椅子の背に凭れると、グウェンダルは小さく溜息をついた。
 本当、獣並みに鋭くて聡い部下を持つのも考えものだ。そう、思いながら。



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原作……特に番外編では、グウェンはヨザックに振り回されているというか、からかわれているというか、そんな印象を受けるのです。そしてそれはやっぱり、グウェンがお庭番のバカにも付き合ってくれる優しい人だからだと。

 いい上司さんです、本当。

 

 

 

09年1月30日まで頑張っていてくれた話です。

 

 

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