胸を張る

 

 

 無機質な丸いテーブルを、そう鍛えているようにも見えない細い腕が、えっちらおっちらと甲板へ運んでくる。途中、船のメインマストに寄りかかって座り込んでいる剣士に手伝うよう声をかけたが、「それぐらい頑張れよ」とあっさり断られていた。

 それにぶーぶー文句を言いながらも、少年は次々と準備を整えていく。テーブル、椅子、卓上型のランプ。

「ねぇ」

 声を掛けると、少年の長い鼻がロビンに向いた。

「何だ?もう座ってていいぞ」

「椅子だけでは駄目なの?」

「は?」

 少年は、未知の言語でも聞いたかのように目を丸くする。

「何言ってんだ、取り調べといえば机にランプにかつ丼だろ?」

 おれはムードも大事にする派なんだ、と少年はどこか得意げに胸を反らした。

 そうは言うが、目下のテーブルにはランプしか載っていない。もっとも、ロビンもかつ丼を食べたいわけでは決してないが。

「でも、あなたはまだ私のことを信用してはいないのでしょう?」

「そりゃそうだ。だからこれから色々話しを聞こうとしてるんじゃねぇか」

「だったら、やっぱりテーブルは無しにして欲しいわ。あなたはテーブルの下でこっそり、私を攻撃するための、何かしら細工をするかもしれない。そんなことをされては困るもの」

「はぁ?攻撃?」

 首を傾げた少年の眉間に、皺が寄った。あらぬ疑いをかけられて、不快に思ったのかもしれない。

 けれど、これまでのロビンは、どんなに相手が善人そうであっても、まずは疑ってかかるようにしていた。自分の身を守るためには、絶対に欠かせないことだ。だから今更、この性質は変えられない。

 失礼だと罵られても構わないと思いつつ、相手の反応を待つと。

 

「何言ってんだ、お前?おれがお前に攻撃したところで、勝てるわけねぇだろ?」

 

 思わずロビンは瞬いた。あまりに予想外過ぎて、すぐにはその言葉を理解できなかったほどだ。

 一方の少年は、まるで自慢のように「おれ様の弱さをなめんなよ」と念押しをすると、再び準備のためにポケットのメモ帳や筆記具を漁りだす。その様を、ロビンは暫く呆然と見詰めた。

 何でそんな妙なところに自信を持っているのか。けれど、呆れるよりもなんだか笑えた。

 自分の弱さを隠すことなく、むしろ堂々と言い張れるこの少年は、ロビンにとって新鮮だった。

「ふふ、分かったわ。じゃあ始めて下さいな、調査員さん?」

 ロビンは今度は躊躇うことなく椅子に座ると、眼下のテーブルに頬杖をついて微笑んだ。

 

 

 

 

 

あとがき

 空島編で空の騎士を呼ぶ笛の争奪戦をしている時、ウソップ達が「誰が一番弱いか」を言い争っていて、ロビンお姉さまが呆気にとられていましたよね。あのシーンから生まれた小話です。(笑)自分の弱さを堂々と主張する集団なんて、きっとロビンちゃんにとっては初めてだったのでしょう。

 あとは、ウソップによる取り調べ中のロビンちゃんがやけに楽しそうだったので、そうなるまでの流れ……みたいなものを捏造したつもりです。(笑)

 

 

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