誕生日を迎える貴方にまつわる、
5つの「願い事」。

 

 

 

 ユーリは、こちらの世界に来るまで魔術を使ったことがなければ、存在さえ知らなかったという。

「『びっくりドッキリ大魔術―!』なんてのはあったけど、あれはタネも仕掛けもある手品みたいなもんだしなぁ。って言ってもおれ、全然見破れなかったんだけどさ」

 ……まぁ、そんなあいつのよく分らない「チキュウ豆知識」はどうでもいい。ぼくが言いたいのはそこではない。要するにユーリは、魔術について全くの無知な状態で眞魔国に来た、ということだ。

 それなのにユーリは、血盟城に着いた翌日には、ぼくとの決闘で強大な魔術を披露してみせた。要素とのちゃんとした盟約も無しに、だ。普通じゃ有り得ない。

 その後も、あいつは次々に魔力を振るった。魔族の土地ならいざ知らず、魔族に従う要素が極端に少ない人間の土地でさえ、砂に水、雪、仕舞いには骨まで操ってみせた。

 

 わざわざ盟約などしなくても、きっと、この世界のどんな要素たちだって、あいつには自ら喜んで力を貸すのだろう。どうやらあいつの好かれる性質は、魔族や人間だけに止(とど)まらないらしいから。

 あいつが迷っている時には、追い風でそっと背中を押し。

 あいつが疲れている時には、木の葉たちが身を揺すって歌い。

 あいつが眠れない夜には、月光が優しく照らすだろう。

 月が出ない夜もある?――問題ない、その時は星たちが照らすさ。どこまでいっても、あいつに従う要素は無くならない。

 それらが無くなるとしたらそれは、あいつがあいつじゃなくなる時だろう。相手を絶えず惹きつけて離さない、それがユーリなのだから。

 もっとも、おかげで婚約者であるぼくの心配は、尽きることがないんだがな。

 

 

 眠れぬ夜にも、

星の光が君を照らしてくれますように

 

 

 

 

 あの王はどうも、感情が表に出過ぎのように思う。くるくると実によく表情が変わる。

 王たる者として、それはあまり誉められたことではないだろう。国主として、他国の王や遣いの者と対峙する事もあるのだ。そんな時に動揺や困惑を悟られるようでは問題であるし、いつもニコニコヘラヘラしていたのでは、一国の主としての威厳がない。

 今もチラと背後の窓から中庭を見下ろせば、手を振りながら娘へと駆けていく王の姿が見えた。嬉しそうな声で何かしら叫んでいる。もっとも、声など聞かずともこの明るい笑みを見れば、百人中百人が、今のユーリの感情は「嬉」であると言い当てるだろうが。

 

 しかし、丁度任務の報告に来ていた部下の意見は、少し違ったようだ。

「まぁ、それは御尤もですけど、あの陛下ですからねぇ……」

「どういう意味だ?」

 窓から室内へと視線を戻せば、グリエが肩を竦めて笑った。

「実際に想像してみてくださいよ、閣下。冷静沈着、いつでも平常心な陛下を」

 表情がくるくると変わることもなく、何があっても動揺を見せない。

 笑う時も怒る時も驚く時も、精々微かに眉や口端を動かすのみで。

 常に落ち着き払ったユーリ。

 想像し、私は自分の眉間の皺が深くなったのを自覚する。

 

 ……それは確かに、嫌だった。

 

 

 我慢しきれずに零れるのは、

明るい笑い声でありますように

 

 

 

 

 「愛」と一言に言っても、恋愛に限らず色々とあると思うのです。家族愛、兄弟愛、師弟愛。

 そしてその「愛」の表現方法にも、色々とあるでしょう。時には愛情の裏返しとやらで、愛する者に冷たく接したり、辛く当たったり、暴力を振るう者もいると聞きます。

 それらの行為について評価をするつもりは私(わたくし)にはありませんが、これだけは断言します。私、フォンクライスト・ギュンターは、陛下に対する敬愛と忠誠を、真っ直ぐにあの方にお届けします!陛下のお好きなヤキュウで言うところの、「すとれーとぼーる」です!!

 私の胸から泉のように次々と溢れ出るこの陛下への愛を、わざわざ歪めている暇がどこにあるというのでしょう?瞬きの間でも早くこの想いを陛下にお伝えしたいのです、そんなことをしている時間さえ惜しいではありませんか。

 そして何より、あの方に辛い思いや痛い思いをして欲しくないのです。

 わざわざ愛情を歪めて痛めつけるよりも、

 大事な人だからこそ大事にしたいと、そう思うのです。

 

 だというのに、ダカスコスは相変わらずツルピカな頭部を撫でながら、言いにくそうに、

「ですがねぇ、閣下。あちこちから妙な汁を噴き出しながら想いを伝えられる事も、陛下にとってはある意味苦行……いえ、戸惑われていらっしゃるんじゃないかと思うんスけどね」

などと言ってくるのです。

 私には彼の言わんとしていることが、さっぱり分かりません。

 あの汁こそが、止めることのできない私の陛下への愛を、最も忠実に表しているというのに。

 

 

 愛おしく思う気持ちのままに、

あなたを愛せますように

 

 

 

 

 渋谷は自分のことをモテないモテないって言ってるけど。モテるっていうのは、何も恋愛方面だけで使う言葉じゃないと思うんだよね。

 そりゃあ、君本人が言うんだから、君はずっと彼女がいなくて、デートすらしたことが無いのは事実なんだろう。だけど、どれだけの人に君は好かれてきた?恋愛対象としてではなく、「人」として。

 何だかんだで君は、いつだって周囲の注目を引いていた。勿論、それは好意だけじゃなく、君は男女構わず喧嘩もよくしてたけど。でもそれだって、渋谷の言動に注目しているからこそ、相手は君に文句を言ってくるんだろう?無関心の相手には、怒りの感情だって湧きようがない。「嫌いだ」っていうのと、「嫌いでさえない」っていうのは、似ているようで全く違うんだから。

 

 そんな君だから、僕はいつだって、君を取り囲む人たちに対して優越感を持とうとしている。

 それが地球の人たちなら、君の魂について。あんなにも色んな人から好かれる君の魂の秘密を知るのは、僕だけだ。君を取り囲む者の誰も、君が魔王だなんて知らない。そしてその魔王を支え、助けることができるのも、僕だけ。

 けれど眞魔国の人たちは、君を王として慕っているし、支えてくれてもいる。だから今度は、地球と眞魔国、両方での君を知っているという点で、僕は彼らに対して優越感を持つ。地球に来たことがあるのはウェラー卿ぐらいだし、彼だって、渋谷が産まれてから数ヶ月くらいしかいなかった。眞魔国にいる者の中で、地球での君を一番知っているのは、僕だ。

 

 僕にとって君は、唯一だから。

 唯一、抱えたこの膨大な記憶を共有できて、本気で僕にぶつかってきてくれて、「幸せ」っていう感情を教えてくれた、大切な友人だから。

 そんな君を独占したい、なんて傲慢な本音を隠すには、やっぱりこうして傲慢な優越感の一つや二つ、持つしかないだろう?

 

 

 傲慢な本音を隠す僕を、

君が嫌悪しませんように

 

 

 

 

 地球から眞魔国へと帰る時は、本当に辛かった。自分は本来この世界にいてはならない存在であると分かっていたけれど、頭で理解している事と感情とでは、やはり別だ。

 彼としっかり対面できたのは一度だけで、あとは遠くから見詰めるばかりだったけれど。それでも毎日見るその姿に、愛着が湧かないはずがなく。本当は地球に残り、傍でずっとユーリが成長していく様子を見守っていたかった。

 断腸の思いで地球を離れたあの日。次に会う時はきっと、彼は俺のことなど覚えていないだろうとも思っていた。それが当然であると。

 

 だから。

「おれ、前にどっかであんたと会ってるかな?」

 ユーリからそう問われた時は、驚きと嬉しさで一瞬呼吸が止まった。

 はっきりとした記憶でなくても、彼は潜在下で覚えていてくれたのだろうか。たった一度、立て篭もり現場という最悪の環境下で対面した、俺のことを。

 緩みそうになる頬と、頷きたい衝動を堪え、俺は静かに「否」の返答をした。ただでさえ異世界に来て混乱している彼に、過去に実は事件に巻き込まれていただなんて事をわざわざ教える必要はないし、何より自分は決めていた。

 ユーリとは、眞魔国で正しく主従として会おうと。

 

 こうしてユーリが、予定よりも数年早くこちらの世界に来た今。今度こそ、俺は彼の成長を見守りたい。これまでに見逃した十六年分など比にならないぐらい、何倍もの年月で、ずっと。

 そしてできれば、傍で見守る俺を、貴方も見ていてくれると嬉しい……なんて思う自分は、早くも子煩悩な名付け親になっているのかもしれない。

 

 

 年を重ねてゆくあなたを、

ずっと傍で見ていられますように

 

 

 

お題配布元→「as far as I know」(管理人:悧子さま)

 

 

あとがき

 一人一話と考えると、魔族主要メンバー5人ということに。三兄弟、王佐、猊下。当然、お庭番の入る余地なし、となってしまうのですが、やっぱり庭番好きなもので、グウェンの話にちょこっと入れさせてもらいました。(笑)

 何はともあれ、有利、ハッピーバースデー!!

 

「ね」→ちょっと、言ってることがギュンター日記風になっちゃいましたかね?(苦笑)

「が」→だって長男閣下は、小さくて可愛いものを好んでいるのですから!

「い」→「愛」なんて言葉を普通に堂々と叫べるのは、王佐閣下しかいないだろう、と。(笑)そんな閣下を、何だかんだでちゃんと毎回、汁ごと受け止めている有利は、やっぱり大きいと思います。

「ご」→原作設定です。マニメでは魔族メンバーが地球へ行くことも当たり前になりつつありますが、原作では、まだ日本での有利を知るのはムラケン君だけですからね。

「と」→有利の誕生日記念の締めとなれば、やはりこの御方かな、と。こちらも原作設定です。マニメでは確か、公園で赤ちゃん有利と出あってアヒルちゃんをもらっていたような…さすがにマニメは平和的です。(笑)

 

 

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