「おれの大事な宝物に触るな」

初めて出会った時から、アイツはその言葉を口にしていた。

 

 

ナンバーワン

 

 

もう既に、アイツどころかこの海賊団のトレードマークと化している麦わら帽子。

あの帽子にアイツがどんな思い入れを持っているのか、詳しくは知らない。ただそれは、大切な友人から預かったもので、それを返すこともルフィが海に出た理由の一つのようだった。きっと、海賊王になりたがっているのも、その麦わら帽子の元の持ち主が大いに関係しているのだろう。

そんな帽子を、アイツは時々、私に渡す。初めて渡されたのは、ココヤシ村で私がルフィに助けを求めた時。それ以降も、帽子の補正やら、預かっててくれだとかで、何度かアイツの麦わら帽子を手にしたことがある。

やっぱりアイツはアイツだから、帽子の手入れなんてこと、自らするハズもなくて。手にしたそれは、汚れていたり、汗で変色していたり、臭いがしたりする。それなのに私は、それを手渡されることを嬉しく思っている自分を知っている。

アイツが何よりも大切にしていて、「宝」だと言い張って、他者が触れるのを良しとしないその帽子を、なんの躊躇いもなく私に預けてくれる。それは、アイツからの無言の信頼のように思えて。崩れ落ちたアーロンパークで、ルフィが私を仲間だと言ってくれた言葉が嘘ではないのだと、証明してくれているようで。

 だから。
 人々から神と呼ばれ、自らもそう名乗る男を前に、私はアイツの麦わら帽子を握り締めた。
 それは、恐怖で混乱しきっていた私に、ルフィが一喝と共に投げて寄越したもの。
 そうだ。私は、未来の海賊王のクルーだ。この眼前に偉そうに立つ、雷男の傍らになんていられやしない。――いや、いたくもない。
「私にだって、望むものはあるわ」
 そしてそれを得た喜びを味わうには、あのバカの集まりのようなあいつらが不可欠なのだ。
 バカで、一癖も二癖もある、あの温かい仲間が。



 ねぇノジコ、信じられる?
 私、宝よりも命よりも大切なものができたみたい。

 

 

 

 

あとがき

 30巻を拝読していて、どうにも書きたくなったお話です。

 口では自分の身の安全が第一、お宝さえ手に入ればそれでいい、という感じのことを言っているナミさんですが、いざとなればやっぱり。

 かつては一番辛い言葉だった「仲間」も、今では普通に口にできているナミさんを見ると、何だか管理人はほっとします。

 

 

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