「めーしー」

「駄目だ」

「鬼!」

「鬼で結構」

 

 

 拍手お礼@

(料理人と船長)

 

 

「なー、サンジぃー。メシー」

 背後からかけられる情けないことこの上ない声を、呼ばれた男は意識して思考の外に追いやった。目の前の包丁を研ぐ作業に全神経を集中するようにする。

 基本的にサンジは、相手が誰であろうと、腹を空かして料理を求めてきた者には腕をふるう。それが料理人としての彼のポリシーだ。

 が、この船長の場合。

「何か作ってくれよー」

「何でだよ!?さっき昼飯たらふく食ったばっかりだろーがっ!」

 いつまでも諦める様子のないルフィに、とうとう包丁を研ぐ手を止めて怒鳴る。そう。この船長の場合、際限がないのだ。

 

 この船の船長は、二言目には肉かメシ。いくら食べても足りないらしい。この麦わらの男は体内にブラックホールでもあるんじゃなかろうかと、サンジは最近思ったりもする。

 だが、そんなブラックホールに付き合っていては、海上という食料が限られている場では、すぐにクルー全員飢えてしまう。ナミから食糧の管理を任されている身としては、尚更その期待を裏切るわけにはいかない。

 

 威嚇の意も込めて一瞥すると、船長は「何を当たり前なことを」と言わんばかりの顔でキッパリと言った。

「何でって、サンジの作るメシはすんごくうめーんだもん」

「……」

 これだから質が悪い、とサンジは内心で毒づいた。

 料理人に対しての最高の殺し文句だと知っていての発言だろうか。……いや、きっと違うのだろう。だからこそ、この無邪気な麦わらの船長は厄介なのだ。

 サンジは銜えていたタバコを手に取ると、盛大に煙を吐き出した。もちろん、そこに溜め息も一緒に乗せて。

「……冷蔵庫の残りもんしか使わねぇーぞ」

「やったー!メシー!!」

 文字通り飛び上がって喜ぶ相手に、サンジは再び息を吐く。

 

 参った。きっとナミにだってどやされる。なのに頬は、その意に反して緩むのだから始末に負えない。

 結局自分はコックで、自分の作り上げた料理を喜んで食べてくれる相手には敵わないのだ。

 

 ご機嫌らしく、何やら意味不明な歌を歌い出す船長を横目に、サンジは冷蔵庫の扉を開けた。

 

 

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つまりは単純なこと。

 コックさんは美味しそうに食べてくれる人には弱いのです。船長さん最強!(笑)

 

 

 

08827日まで頑張っていてくれた話です。

 

 

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