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(船大工と狙撃手)



「釣り竿……か」
 呟いて、フランキーは独り笑った。
 今乗っているこの船や多くの戦艦、兵器を造り。そしてここ最近は、解体ばかりしていた。そんな自分が造るには、あまりにも長閑で平和な代物だ。けれど、決して嫌な気はしない。


 フランキーが握っているのは、真ん中からポッキリと折れてしまっている釣り竿。製作者は、ビビリ屋で意地っ張りで嘘つきで、けれど熱くて優しい心を持った狙撃手だ。―― そう、狙撃手。決して大工ではない。
 けれど器用なその少年は、船の修理だけでなく、これまでにも色々な便利道具を製作してきたらしい。彼自身や航海士の戦闘道具も見せてもらったが、貝(ダイアル)なんていう未知の道具を使っているとはいえ、その出来には思わず唸らされた。
 そんな少年の製作物である釣り竿。これまでの海ではそれで充分事足りていたようだが、さすがに新世界を目前にした海ともなると、限界がきてしまったようだ。海の生物のサイズが桁違いに大きいのだ。それもそうだろう、この辺りの海にやってくる船自体が少ないのだ、釣り上げられることもそうそうなく、生物達は安心して大きくのびのびと育っている。


 大きな獲物相手でも、折れずに釣りあげられる竿を。そう依頼され、フランキーはこうして兵器開発室に籠っている。まったく、部屋の名前からしても、やはり自分には似合わない代物だ。
 思い、笑いながらも、釣り竿製作に没頭していると。遠慮がちに「フランキー」と声をかけられた。視線を上げると、狙撃手の少年が部屋の入り口から顔を覗かせている。
「調子はどうだ?悪いな、急に頼んじまって」
「なぁに、お安い御用ってヤツよ。それよりどうだ?ちょっと装飾にも凝ってみたんだが」
 製作途中の竿を軽く持ち上げると、ウソップが興味津々とばかりにいそいそと部屋に入ってくる。
 フランキーの手元を覗き込み、笑った。
「はは、いいんじゃないか?すげェお洒落な釣り竿になりそうだな」
「お洒落なだけじゃねェぜ?柔軟に撓り、且つ、折れねぇ頑丈さ。スーパーな釣り竿にするからな、安心しろ」
「あぁ。期待してる」
 フランキーが胸を張り、ウソップが笑い、そこで会話は途切れた。
 けれど、ウソップは部屋を出て行かない。作業を再開したフランキーの手元を、じっと食い入るように見詰めている。フランキーは思わず笑ってしまった。
「何だ?そんなに気になるか?」
「あぁ、やっぱプロの技は違うよな。スゲェ」
 真剣な顔で頷かれる。
 こう手放しで称賛されると、悪い気はしない。気分をよくして、フランキーは提案した。
「なんなら折角だし、何か教えてやろうか?知りたい技とかあるか?何でもいいぜ」
「いや、それはいい」
 予想外にきっぱりとした即答を返され、フランキーは軽く目を見開く。
「技ってのは、教わるもんじゃなくて盗むもんだろ?」
 ニッと笑った少年が見上げてくる。
 思わずフランキーの口端も上がった。
「へぇ、一端の口をきくじゃねェの。いいぜ、このおれのスーパーな技、盗めるもんなら盗んでみろ」
「おう、望むところだ」
 長い鼻の下を人差し指で擦りながら、少年が笑う。
 応えるその顔には、ビビリ屋の面影などどこにもなかった。


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ウォーターセブンを出航して2・3日後…のイメージです。

 橋の装飾に凝るフランキーなら、釣り竿にも何かしら装飾を施すのではないかな、と。(笑)

 

 

 

’10215日まで頑張っていてくれた話です。

 

 

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