あり得ない。
噂というのは、なんと当てにならないことか。
自船の船縁に飛び乗った彼らは、つくづくそう思った。
拍手お礼4
(とある海賊団)
後方から近づいてくる船の旗印を確認した時は、一瞬にして船内に緊張が走った。麦わら帽をかぶったドクロマーク。このところ何かと話題になることの多い、麦わらのルフィ率いる海賊船である。
だが、じわじわと近付いてくる船体を見た彼らは一気に脱力した。何なのだ、あの暢気な顔の船首は。ヒマワリか太陽かライオンかは知らないが、海賊が誇示すべき恐怖や強さが全くもって感じられない。
念のためにと行った威嚇射撃にも、一瞬船体は揺れたものの、特に進路を変えることもなく、ヒマワリもどきの暢気な顔がこちらの船に並ぶようにして近付いてくる。
脱力したままの気持ちを何とか捨て去り、戦闘に備えて彼らが自船の船縁に飛び乗れば、呆れたことに甲板にまでその長閑さは広がっていた。一面が緑の芝生、ブランコや滑り台といった遊具まで設置されている。
正直、あり得ないとしか言いようがない。
「……おい。この船の奴ら、海上をお遊戯の場か何かと勘違いしてんじゃねぇのか?」
「あぁ、どうかしてるぜ。これが海賊の乗る船かよ」
「海賊をなめてるとしか思えねぇ」
噂なんて当てにならないものだ。こんなふざけた船に乗っているような奴らが、あれほどまでに世間を揺るがすいくつもの事件を起こしたはずがない。
嘲笑さえ浮かべる者が出てくる中、向かいの船の船縁にも2つの人影が飛び乗ってきた。黒いスーツに銜え煙草の金髪男と、赤いベストに麦わら帽子の男。
まさか船長がいきなり登場するとは思わなかったが、船員総出のこちらに対し、あちらはたったの2人。どちらも俯いていて、表情は見えない。
ポケットに両手を突っ込んだまま、黒スーツの男が低く唸った。
「……ふざけんなよ、てめぇら」
どうやらさっきのこちらの会話に対して怒っているようだ。あれぐらいのことでこれ程までに怒りを露わにするとは、やはりこの船の奴らは……――。
嘲笑する空気が更に広がろうとした瞬間。ゆらり、同時に顔を上げた2人の男たちが、これまた同時に船縁を蹴った。
「てめぇらなんかの相手してたら、ナミさん御要望のアルデンテが伸びちまうだろーがあぁぁっ!!」
「は?」
「待ちに待った昼飯が、やっと食えるところだったんだぞぉぉぉーっ!!」
「へ?」
彼らは、自分の聴覚を疑った。
アル……何とか?それに、昼飯?
これ程の殺気を振り撒き、射殺さんばかりの視線でこちらに飛びかかってくる理由が、そんな暢気でくだらない内容だというのか。
あり得ない。
初めとは別の意味で、けれど何倍も強い想いで彼らがその言葉を脳内に浮かべた直後にはもう、彼らの視界は全員残らず暗転していた。
「なぁゾロ、行かなくていいのか?」
「あの状態のアイツ等なら、2人で充分だろ。特に強そうな剣士も居ねェみてぇだしな」
「にしても、タイミングの悪い奴らだよなぁ。わざわざこっちの昼飯時に襲わなくても……」
「不運ね」
「おいしーい」
「って、もう食べてんのか、ナミ!?」
「あら。だって折角のアルデンテが伸びちゃうでしょ?」
「いや、だからって……」
「牛乳たっぷりのクリームパスタ、骨身に染みますねぇ」
「ってブルック、お前もかーっ!!」
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★つまりはギャグでした。(笑) ワンピではあまりギャグものを書いていなかったなぁと思いまして。
麦わら海賊団のお食事時は、特に注意が必要です。(笑)
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