拍手お礼5
(料理人と音楽家)
「夕飯のリクエスト、ですか?」
紅茶を飲む手を止めた骸骨が、小さく首を傾げる。
役目を終えた茶葉の缶を戸棚に戻しながら、サンジはその姿を振り返った。
ダイニングには今、喉が渇いたとやってきたこの骸骨とサンジしかいない。だからこそサンジは尋ねた。
ここに船長でもいようものなら、「肉―!」とバカの一つ覚えのごとく横入りしてくるに決まっている。
「昨日の歓迎会はリクエストなんて訊く暇もなかったから、こっちで適当に作ったけどな。せっかく仲間になったんだ、好みの把握も兼ねて、今夜の料理はお前の喰いたいもんにしてやる。何がいい?」
幸い、スリラーバークで食材は山と手に入った。無駄遣いをする気は無論ないが、どんな料理をリクエストされても、今ならある程度は対応できる。
白くて細い右手を、考えるように右の頬骨に当てて数秒。骸骨の口が動いた。
「温かいもの、ですかね」
「温かい?」
返った応えに、思わずサンジは眉根を寄せた。
「随分と大雑把だな。もっと具体的にはねェのかよ?」
せっかく自分が、レディ以外に珍しくリクエストを聞こうというのに。
しかし、骸骨は尚もアフロ頭をフルフルと横に振る。
「いいえ、本当にそう思ったんです。『温かいものを食べたい』って。だって私、出てくる食事が温かいというだけで、とっても幸せな気持ちになるんです」
無い胸に両手を当てそう語った顔が、ほんの僅か、俯いた。
「何しろこの五十年、もうずっと食べていませんでしたから――『誰かが私に作ってくれる、出来たての料理』を」
「っ!」
そういやコイツ、初めてこの船に来た時も、真っ先に料理が食いたいなんて言いだしたっけ。
瞠目しながら、サンジは数日前のことを思い返した。確か、まともな食事は何十年ぶりだとも言っていた気がする。
あんな暗い海で漂い五十年、この骸骨は独りでどんな食生活を送ってきたのだろう。
食糧が尽きることだって、きっとあっただろう。そして運よく食事にありつけたとしても、それらは乾き、冷めきっていて。
そんな過酷な食生活の中でも、ラブーンとの約束を胸に必死に耐え、生き抜いた――男。
「あ、紅茶」
一杯目を飲み干してしまったことに気付いた男が、ティーポットへと手を伸ばす。しかし、それより先に動いたサンジが、空のカップに注ぎ足しながらニヤリと笑った。
「わかった。そのリクエスト、受け付けた」
さて、メインは一体何にしよう。
どうせなら、この男の身体にいいらしい牛乳をたっぷりと使った料理にしようか。
そう、例えば――特製ホワイトソースのグラタン。
「あつっ!あちち!サンジさん、これ熱いですっ!火傷しちゃいます!――あ、私、火傷する舌ないんですけどね。ヨホホー!」
「うるせぇ、黙れ!テメェがリクエストしたんだろーが!!そもそもグラタンが熱いのは当たり前だっ!ちったぁテメェで気を付け……――」
「あ、ちょっと失礼。……ゲェーップ」
「ゲップもすんじゃねぇー!!」
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★最後はギャグで締めてみました。(笑)
でも、サンジくんから見たブルックの表現が「骸骨」から「男」になる部分には、ちょこっとこだわりました。
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