オレは絶対悪くない。 王様の日曜大工 それは、よく晴れた日の午後だった。 上司閣下から「陛下がお呼びだ」と言われ指示された場所は、中庭。呼び出されるには少々意外なその場所に首を傾げながらヨザックが向かえば、そこには双黒の魔王陛下が大きく手を振って待っていた。……片手にトンカチを持って。 「ヨザックー、こっちこっち!」 「……これはまた坊ちゃん、王様にはとてつもなく不似合いな物を持ってますねぇ」 苦笑しながら言えば、相手は「そう?」と小首を傾げる。そうに決まっている、魔王にトンカチだなんて聞いたことも無い。 「それよりさ。ヨザックって、女装以外の趣味は日曜大工だったよな?」 「ええ。女装は仕事上の都合ですけど、大工仕事は好きですよ」 ニッコリ笑顔で さり気無く女装趣味説を否定してみるが、有利はさっぱり聞いていない。まぁ、最近はあまりにも他人から言われるものだから、自分でも趣味のような気がしてきたが。 「よかった〜。なぁヨザック、おれに大工仕事教えてくれない?」 「え?そりゃあ構いませんけど、どうしてまた急に?」 すると相手は、少し照れくさそうに「へへ」と笑う。 「実はさ、グレタがバードウォッチングしたいって言ってて。鳥がくるように、木に置く鳥小屋を作ってやりたいんだ」 「ばーどうぉ……?」 「バードウォッチング。探鳥のことだ」 有利の後ろに当然のように控えていた護衛役・ウェラー卿が、にっこり笑顔で親切に注釈を入れてくれた。ただし、放つオーラは悪寒がする。 なぜそんなに不機嫌なのだろう。自分が大工仕事の頼りにされなかったことを、不満にでも思っているのだろうか。名付け子大好きな親の八つ当たりはやめて欲しい。 「時間取っちゃうかもしれないけど、いいかな?ヨザック」 そんなウェラー卿を取り巻く空気を全く感知していない、ある意味大物な王が、申しわけなさそうに見上げてきた。無論、返事など決まっている。 「ええ。作りましょ、とびっきりの鳥小屋」 にっこり笑い、片目を瞑った。 「そう、そっちの木片をこっちに」 材木から切り落とした板状のものを、鳥小屋の形に組み立てていく。 「ところで坊ちゃん、もう一人の父親はどうしたんです?」 「もう一人? ああ、ヴォルフのことか。いいんだ、あいつスグ顔に出るから。鳥小屋のことはグレタに内緒にして驚かせたいから、今回はヴォルフにも秘密」 「へー、成る程」 だいぶ婚約者殿の性質を理解してきたようだ。 会話を交わす間も、作業は進む。ヨザックが板を押さえ、有利が釘を打つ、という分担だ。 「よし。じゃあ、今度はこっちに釘を」 「了−解」 応えた有利が、手にしていた釘を板上に下ろそうとした、まさにその時だった。王の背後に仁王立ちする影が一つ。 「ユーリ!ぼくに隠れて何をしているっ!?」 おそらく有利を捜し歩いていたのだろう。やっと見つけたと言わんばかりに、やってきたフォンビーレフェルト卿が怒鳴った。 突然降ってきた予想外の怒声に、驚いたらしい王がビクッと反応する。その拍子に、下ろされかけていた釘の向きも変わった―――お庭番の人差し指へ。 「っ!?」 小さく呻くと、有利が慌てて釘を引き抜く。見る見るうちに、傷口に小さな赤い球ができた。 「うわーっ!!ごめんヨザック!血が出てるっ!!」 「ああ、平気ですよこれぐらい」 実にこの王らしい反応に、お庭番は苦笑する。 刺さったとはいえ、釘の先が少しだけだ。普段負う傷を思えば、こんなもの出血のうちにも入らない。 「大丈夫ですってぇー。こんなの唾でもつけときゃ治……――」 ヨザックは言葉の途中で固まった。 有利が怪我した指を掴み、パクッとその口にくわえてしまったのだ。そして瞬きする間にそれをまた外に出す。 一瞬治まった血は、やはりすぐにまたジワリと出た。 「あーっ、やっぱりこんなんで止まるわけないか。釘だから消毒もちゃんとした方がいいしな。ちょっと待ってて、救急箱取ってくる!」 「へっ!?ちょっと待って坊ちゃん!」 「いいんだって。怪我させたのおれなんだから」 「いや、そうじゃなくて!」 引き止めるお庭番を残し、王は駆けていってしまう。その後姿を、ヨザックは絶望的な思いで見詰めた。 まずい。非っ常−にマズイ。 彼は天然すぎて自分のしたことが判っていないだろう。彼にしてみればあれは、純粋にお庭番を心配しての咄嗟の行動。 だが、よりにもよって、この二人のいる前ですることはないではないか。 「ヨザック……」 「グリエ……」 「ひっ!」 地の底から響くような声に振り返り、慌ててお庭番は防御体勢に入る。目の前の二人の背には炎が見えた。それは紛れもない、嫉妬の炎。 「ちょっと待ってお二人とも!落ち着いてよーく考えて?これはオレが悪いの?違うでしょ!?」 「そうか?ヴォルフラム」 「いいや、グリエが悪いだろう」 「奇遇だな、俺も同感だ」 何でこんな時だけ兄弟仲よく同意見になるのか。考えを揃えたついでに、剣まで同時に引き抜くのだから、堪らない。 「待てってば!これはどう考えても不可抗力でしょう!?だから早くその剣納めてっ!」 「なぜだ?これから使うのに」 「納める必要など無いだろう?」 「なに普通に不思議そうな顔してるんすか!?あるっ!納める必要あります!!」 お庭番は心中で必死に叫んだ。 坊ちゃん!オレの怪我の心配してくれるなら、 救急箱なんて要らないから、早くこの場に戻ってきてっ!! でないとオレの怪我の数がもっと増えちゃう〜っ!! |
あとがき このお題を初めて見た時は、「これは有利がヨザックに日曜大工を教わるシチュエーションのためにあるお題だ!」と思ったものです。そして、ワイワイ楽しそうな話になる予定だったのですが……気づけばこんな事態に。(苦笑)何ででしょう、私はお庭番いじめが好きなのかしら?(←!?) |