ぺちぺち

 

 

「遅いわねぇ……」

 佐藤は自身の腕時計に視線を落とした。

彼女と、そして今回の相棒である高木は、11時半から担当している事件の目撃者の話を聞くことになっている。しかし、そろそろ本庁を出なければならない時間になっているにも拘らず、高木がデスクに戻ってこない。

佐藤は席を立つと、恐らく高木の行動を一番把握しているあろう男の元へと向かった。

「ねぇ千葉君。高木君、どこいったか知らない?」

声をかければ、相手が座ったままこちらを見上げてくる。

今日は彼にしては珍しく、周囲に食べ物がなかった。心なしか、いつもより元気もないように見える。まぁ、刑事には珍しいことでもないが。

「高木さんなら、調べたいことがあるって言ってましたから、資料室じゃないですかね」

「そ、ありがと。ところで大丈夫?疲れてるみたいだけど

「ああ、ちょっと今担当してる事件が追い込みでして。まだ朝飯も食べてないですよ〜」

 千葉が苦笑する。食べ物に目がない彼でも、仕事でいざという時別だ。そこのところは佐藤も認めている。

「でも、多分高木さんの方が疲れてるんじゃないですかね?」

「え?そうなの?」

「ええ。飯抜きは勿論ですけど、昨夜は本庁に詰めて徹夜だったみたいですよ」

 

 

 

「成る程ね」

 資料室の扉を開けた佐藤は、小さく呟いた。

 そこには、机に資料を散乱させたまま突っ伏して眠っている、高木の姿があった。徹夜していたという千葉の情報は本当のようだ。

 疲れているところ悪いが、こちらは相手を待たせている身。遅れるわけにはいかない。

 佐藤は高木に近付くと、彼の頬をぺちぺちと叩いた。

「高木君、起きて。時間よ」

 しかし、相手からの反応は小さな鼾のみ。おまけに、近付いたせいで高木の顔がよく見える。どんな夢を見ているのか、実に幸せそうだ。

「……まったく。可愛い寝顔しちゃって」

 そっと高木の頬に片手を滑らせ、小さく微笑む。

 しかし、すぐに表情を引き締めると、彼女はその手を振り上げた。

「高木君、時間よ!起きなさい!」

「痛っ!!」

 ばしっ、と小気味いい音が響くと同時、高木が文字通り飛び起きる。

「まったく。一日ぐらいの徹夜で居眠りしてどうするの?さ、目撃者に話を聞きにいくわよ」

「あ、はい。すみません」

 慌てて周囲の資料を片付け始める高木を手伝いながら、佐藤は小さく笑った。さっきの高木の意外と可愛い寝顔を思い出してしまったのだ。

「え?何ですか?」

 不思議そうに尋ねてくる相手に、真実など言えるはずもなく。

「寝癖、ついてるわよ

 彼の頭を指差して、再度笑った。

 

 

 

 

 

 

あとがき

 だいぶ前から出来ていたのに、伸びに伸びて、ようやく日の目を見れた話です。

 幸せそうな高木刑事の見ていた夢の内容は……まぁ、言うまでもなく佐藤さん関係でしょうね。(笑)

 

 

back2