リタルダンドがいい 

 

 

 最初はな、とルフィさんは芝生の甲板のブランコに揺られながら呟いた。

「最初は、早くワンピースを見つけたくてたまらなかったんだ。村を出てからも、『早くグランドラインに入りてぇ!』ってうずうずしてたしな」

 ブランコの隣に立つ私は、黙ってただ頷いた。

 私も外の海からグランドラインへと入ってきた身。ルフィさんの気持ちはよく分かったから、本当は同調の言葉を言いたかったのだけれど、あえて声には出さなかった。どこか遠くを見るようにしている彼の素の言葉を、遮ってしまいそうな気がして。

 キィ、と小さくブランコが鳴く。

「でも最近は、ゆっくり進むのもいいかもしれねェって思う時がある。海での冒険ってホント、想像以上に面白いからさぁ。こんなおもしれぇ毎日があっという間に通り過ぎたんじゃ、勿体ねェじゃん」

 あ、でも、勿体ねェからって止まるわけじゃないぞ?

 ここは重要とでも言わんばかりに、ルフィさんはわざわざブランコの揺れを止めてまでして私を見上げてきた。

「ちゃんと前には進むんだ。ワンピースを見つけるって思いは変わんねぇからな。ただ、進む速度ってやつが……」

「リタルダンドでもいいかな、と思うようになったんですね」

 彼の言葉を請け負ってみせれば、ルフィさんが「んん?」と小首を傾げる。

「リトルランドって、どっかの島か?ブルック」

「ヨホ、惜しい聞き間違いですね。『リトルランド』ではなく、『リタルダンド』ですよ。音楽の世界で使われる言葉で、『だんだん遅く』という意味です」

 止まるでもなく。あっという間に過ぎるでもなく。

 一つ一つの冒険を噛みしめながら、進んでいく。

「へーえ、音楽家ってそんな言葉も覚えんのか?むっずかしーなぁー」

「ヨホホ、慣れればそれほどでもありませんよ。脳からスルッと出てきます。もっとも私、脳みそないんですけどー!」

 頭蓋骨の蓋を開けながら「スカルジョーク!」と叫べば、ルフィさんが大口を開けて楽しそうに笑った。

 

 楽しいついでに今日は、陽気で、けれどのんびりとした、リタルダンドを使う曲を弾いてみようか。

 そう思い、私はすぐ傍に置いていたバイオリンケースへと手を伸ばした。

 

 

 

 

あとがき

 4万打御礼文の一つでした。「as far as I know(管理人:悧子さま)」からお借りした、「あがとう」お題のうちの一つ、「」です。

 初書きブルックさんで、ちょっと緊張しつつ書いた話。でも、音楽用語(リタルダンド)がテーマとくれば、やっぱり音楽家でしょう!と、迷わず彼を登場させました。(笑)

 

 

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