「じゃあ行ってくるな、ブルック!船番よろしくなー!!」 「はい!骨身を惜しまず、しっかり見張りますので!皆さんお気をつけてー!!」 船縁から見下ろした白い砂浜。そこからブンブンと勢いよく手を振ってくる笑顔の少年船長に、ブルックも白くて細い手を振り返す。 無邪気に駆け出す船長を筆頭に、同じく手を振ってくる者、振らずにただ片手だけを上げる者、振り返った視線のみで「行ってくる」と告げる者。それぞれがそれぞれの反応をブルックに返しながら、町へと向けて歩き出す。 だんだんと離れていく8つの影を、ブルックは見えなくなるまで見送った。 「淋しい」を抱きしめる 「さて。私は展望台へ行きますか……」 見張りには持って来いの、この船で一番高い場所。そこを目指そうと、船縁から甲板へと向き直ったブルックは、ふと動きを止めた。 しん、と静まり返った船内。甲板上はもちろん、どの扉の奥からも、物音も人の声もしない。聞こえるのはただ、揺れる波の音と、風と、それに吹かれたブランコがキィと軋む音だけ。 緑が眩しい甲板に一つだけ落ちている自分の細長い影の黒が、やけに目立って見えた。 「ヨホ。何だか淋しいですねぇ……」 呟いて、ブルックは「おや?」と首を傾げた。 何故か今、唐突に違和感を感じたのだ。けれど、その違和感の正体が何か分からない。 ブルックは試しにもう一度、同じことを繰り返してみた。辺りの音に耳を澄ませ、辺りの景色をじっくりと目に焼き付ける。 確かに正確なことを言えば、自分には耳も目も無いのだけれど、それでも特に違和感と呼べる感覚は湧かなかった。 となれば。 「……ヨホ。何だか、淋しいですねぇ」 もう一度呟くと、骨身の体が先程と同じ感覚を訴えてきた。 「あぁ、やはり」とブルックは小さく笑う。 「『淋しい』と思う事自体が、違和感だったんですね、私……」 「淋しい」。それは、本当に久しぶりに抱いた感情だった。 船上にたった独りで過ごしたあの50年は、確かに孤独で、怖くて、死にたいとさえ思ったけれど。途中からはもう、独りの空間が当たり前になり始め、「淋しい」という感覚がどんどん麻痺していった。 多分、本能的な防衛反応だったのだろう。そうしなければ自分は、孤独に圧し潰され、狂っていただろうから。 だから本当に、こんな風に「淋しい」などと思うのは久しぶりで。 そしてそう思えるのは、最近の自分の周りに、常に『誰か』がいてくれるからこそ――。 そう気づいてしまえば、今のこの淋しさも、ひどく愛しいものに思えた。 |
あとがき 『淋しいと感じることの幸せ』。字面だけ見ると何だか変な感じですが、ブルックさんの場合はこれが適合するというか…。 ブルックさんは、たった独りで過ごした50年という期間や、一度「死」というものを経験していることを基にキャラクターを考えていくと、感情や感覚、物事の考え方が、一般的なそれらとは大きく変わってくるものが多いような気がします。 だから自分で書くとなると結構悩むキャラですが、同時に書きがいもあります。ギャグシーンではほんとに活き活きしてくれますし。(笑) ブルックさん、ハッピーバースデー!! |