樹海が広がる暖かな国で。

サクラが約束を果たしたお礼か、突然起こった竜巻は大量の花を運び。

様々な色や形をした花たちが、空からふわふわと舞い降りていた。

 

 

真意は

花に隠れてしまった

 

 

「小狼君」

 花と共に上空から降ってきた声に。花に囲まれ眠るサクラにすっかり見入っていたおれは、慌てて意識を現実に引き戻した。

 顔を上げれば、蒼色の瞳がこちらを見下ろしている。

「あっ、はい。何ですか、ファイさん?」

「ごめんねー、花のお姫さまに見とれてる時に邪魔しちゃって」

「いっ、いえ!!それは、そのっ……」

 図星を指され、恥ずかしいやら困ったやらで、わたわたとした反応しか返せずにいると。少し可笑しそうに笑ったファイさんはしかし、すぐにその笑い声を引っ込めた。とはいえ、微笑みを浮かべているのはいつもと変わらないが。

「前の桜都国……桜花(エドニス)国や、この国にきてからもバタバタしてて言えなかったから、今言わせてね」

 おれがサクラを抱えていて立てずにいるせいか、ファイさんはその場にしゃがみ込む。まるで、おれと視線を合わせてくれるかのように。

「ありがとう」

「え?」

 小首を傾げてしまった。何を指しているのかわからない。

 そんなおれの反応を見てか、ファイさんがふわりと笑い、説明を加える。

「オレのために、星史郎さんに一人で挑みに行ったでしょう?」

「だ、誰かに聞いたですか!?」

 眠っているサクラを抱えていたにも拘らず、思わず身を乗り出してしまった。知らないと思っていたのに。いや、むしろ知らないでいて欲しかった。何しろ……。

「うーん。と言うか、自分で直接聞いちゃったというか……」

 詰め寄るおれに、ファイさんは言いにくそうに苦笑する。

「ごめんねぇ。聞くつもりはなかっただけど、桜花国に戻って、まだ状況が把握できていない時に探索がてらブラブラしてたら、小狼君の入った夢卵(ドリームカプセル)を見つけてね。そしたら、ちょうど小狼君の喋る声が聞こえてきて」

 嫌な予感がする。鼓動がやけに速くなった気がした。

 まさか、まさか。

「そ、それはちなみに……どんな?」

「『おれはあの人に何度も助けられました』って辺りー」

 

『まだ知り合ったばかりだけれど、おれは、あの人に何度も助けられました。だから…貴方をこのまま行かせるわけにはいきません』

 

あああーっ!」

 おれは思わず頭を抱えこんだ。恥ずかしい、恥ずかしすぎる。

 あの言葉に嘘は無いし、あの時はファイさんが死んでしまったものと思い込んでいての言葉だった。が、まさか本人にあの台詞を聞かれていたなんて。恥ずかしいにも程がある。

「す、すみません!あの時は何だか独りで馬鹿みたいに」

 真っ赤になりながら頭を下げたおれに、ファイさんはクスクスと笑った。

「何で謝るのー、オレは嬉しかったよ?自分では小狼君に大したことしたつもりなかったのに、あんな風に言ってもらえてー。……でもね、」

 微笑は浮かべたまま。けれど、声のトーンが一気に下がった気がした。

それは、どこか悲しげに。

「今回はゲームの中だったからよかったけど。だめだよー、オレなんかのために、勝ち目のない相手に向かっていくような馬鹿なマネしちゃ」

「そんな!でも……」

言い募ったおれは、固まった。

ファイさんは微笑んでいるし、涙目にだってなっていない。

なのにその顔は、今にも泣き出しそうで。

「駄目だよ、絶対」

「……ファイさん……?」

 どうかしたのかと続ける前に、第三者に遮られた。それは、かなりそそっかしいと思われる、この国の可愛らしい住人。

「踊り、踊る!魔物がいなくなった!今度はそのお祝い!」

 おれたちが魔物探しに行っている間に、ファイさんにすっかり懐いてしまったらしい。

対するファイさんも、あっという間にいつもの微笑みを顔に浮かべる。まるで、さっきの表情は見間違いかと思う程に。

「あ、いいね〜。ね、小狼君も?さっきオレがやってた踊り。楽しいよー、太鼓叩いたりして」

「あ、いや。おれ踊りちょっと……」

「そんなこと言わずー。ねぇねぇ、黒様も踊ー!」

 再度尋ねようとするも、ファイさんの口が止まることはなく。まるで意図したかのように、話はどんどんズレいく。

「ぜってぇー嫌だ」

「つれなー。小狼君、弟子から師匠にガツンと言ってやって!」

「む、無理ですよ、そんな!」

「小僧、分かってるよな?」

「は、はい……」

「うわー、権力で押さえつけてるー。黒たん悪いひとだー」

「何と言われようが、俺は踊らねぇ!」

 

 黒鋼さんをからかうファイさんに、先に住人たちと踊っていたモコナまで加わり。始まったいつもの二対一の遣り取りを、おれは何ともいえない心持で見ていた。

 降り注いでいた花達も、いつの間にかやんでいて。

 結局、最後までファイさんにあの言葉と表情の真意を尋ねることはできなかった。

 

 

 

 

 

『……オレは、自分が関わることで誰かを不幸にしたくない』

 

 

 

 

 

あとがき

 小狼君の桜都国でのあの台詞をね、管理人はファイさんに聞かせたかったのです。(苦笑) 夢卵の中って、やっぱり寝ているでしょうか?だったら寝言が聞こえてきたということになりますかね。

 タイトルの「花」は、降り注いだ花の絨毯のつもりでしたが、ファイさんに例えてもいいかもしれません。ファイさん、美人さんですからね。(笑)

 

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