拍手お礼@−1

(ファイ+小狼)

 


「抜刀術?」
「はい。『居合』ともいうそうですが」
 頷いて、小狼は実際に手を振りながら魔術師に説明してみせる。
「こう、刀を抜刀する勢いを利用して敵に斬りつける技なんです」
「へー。それを今朝、黒ぽんから学んだんだー」
 頷くファイの笑顔は、どこか引きつっていた。
 が、熱っぽく語る少年は、相手のその様子にちっとも気付かない。
「はい。少しずつですが、黒鋼さんが色々な技を教えて下さるようになったんです。これからも黒鋼さんに特訓していただいて、もっともっと強くなります!」

「そっかー。向上心があっていいねぇ、小狼君。……ところで」
 魔術師は一旦言葉を切ると、少年の目の前に、銀色に光るものをスイッと差し出した。
「せっかくだし、こっちの緋炎で実演してくれないー?」
「え?何言ってるんです、ファイさん?緋炎はおれが今持っているじゃないですか。それは緋炎じゃなくて、フライ返しですよ」
 ほんとにファイさんは面白いですよねー、と笑われ、魔術師は何とも言えない笑みを浮かべる。

―――うわー。これがフライ返しに見えるのかぁ……。
 ファイが手にしているのは、フライ返しではなくお玉。
 そして、少年が今手にしているのは。
―――包丁で技の実演されちゃ、気が気じゃないんだけどねー。
 そんな魔術師の胸の内など、少年が知るはずもなく。
 白き魔法生物のいたずらによって酒を飲んでしまった小狼は、「今朝の復習を!」などと言いながら、再び鈍く光る包丁を振り回し始めたのだった。


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ちなみに黒鋼さんは、酔ったサクラちゃんとモコナを外で追いかけている最中です。(笑)
 酔っ払いの小狼君、好きですー。

 

 

 

 

 

拍手お礼@-

 (ファイ+黒鋼)

 


 魔術師は退屈そうに頬杖をつきながら、向かいに座る男の様子を眺めていた。
 小狼とサクラ、おまけにモコナまでもが買い出しに行ってしまった今、自分の相手は必然的に、仏頂面のこの男しかいない。が、その貴重な相手は、さっきから黙々と自身の愛刀の手入れをするばかりだ。

こんなことなら料理の下準備をもっとゆっくりやっておけばよかったと、魔術師は独り後悔した。

「ねぇー、黒みゅー」
「俺はそんな妙な名前じゃねぇ」
 声にも態度にも退屈さを滲ませて呼んでみるが、相手から返ってくるのは文句のみ。視線一つ寄越さない。
 退屈な上に、そんな愛想の欠片もない態度をとられ、ファイは些か口を尖らせた。
「名前ぐらい可愛くしてもいいじゃないー。それにさぁ、黒様だって文句言える立場?オレたちのこと、ちゃんと名前で呼んだことないクセにー」
 “人を変えるにはまず自分から”って言うでしょー、と更に付け加えれば。聞いているのかいないのか、手入れを終えたらしい黒鋼が、ため息をつきつつ刀を鞘へ納めた。

「ったく、んなこたどーでもいいだろ。……それより、ファイ」
「!?」
 魔術師は驚愕に目を見開いた。
 確かに自分は今しがた文句を言ったが。この男がこうもあっさり態度を変えるなんて。
 けれど彼のそんな驚きは、時間にしてみればほんの一瞬のことだった。

「……――ルとやらはどこだ?小僧が、今朝図書館で調べてきた羽根についての資料を、それに入れてあるとか言ってたんだが」
「へ?あ、あぁ!ファイル、ファイルね。ちょっと待っててー、今持ってくるからー」
 必死の笑顔でファイは椅子から立ち上がる。
 この時彼は、一つの結論に至った。


 “素直な黒鋼は気持ち悪い。”



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★ギャグですから……ね?(苦笑) 黒鋼さん好きの方、ごめんなさい。

 

 

 

 

 

拍手お礼@−3 

(ファイ+サクラ+???)

 


ばしゃっ!!

「……」

ポタポタと髪から滴る水を横目に、白き魔術師は何とも言えない表情を浮かべた。かろうじて言うなら、「参ったなぁ……」という類の苦笑だろうか。
 赤ん坊がハイハイをするような四つん這いの体勢でいる彼の周りは、緩やかな流れの川。無論、彼は初めからこのような場所にいたわけではない。


 モコナの口から一向が新しく降り立ったのは、木々が鬱蒼と生い茂る森の中。当然のように、夜は川原で火を焚き、野宿となった。
 そうして、それぞれが思い思いの場所で就寝となったのだが。最近現れてきたサクラの寝相の悪さが災いし、川の近くに陣取って寝ていたファイに、転がってきた彼女の足蹴りが見事に入ったのだ。
 魔術師が気付いて目覚めた時には、もう既にその体は宙に浮いており。少女の蹴りの被害者は、そのまま傍の川の中へと落下する結果となった。


 軽く頭を振って周囲に水滴を散らすと、ファイは立ち上がり、川岸へと這い上がった。その岸の近くには、幸せそうな顔で寝息を立てている少女が一人。
 魔術師は今度こそ、明らかな苦笑を浮かべた。
「うーん。まずはモコナを起こして、前いた国の服を出してもらうかなぁー」
 濡れたままで、この少女を元寝ていた場所まで抱えて運ぶわけにはいかないだろう。そしてそれが済んだ暁には、岸からも少女からも離れた場所で再度寝ることとしよう。
 ファイがぼんやりとこれからの算段を立てていると。不意に低い声が響いた。
「おい」
「あ、やっぱり起こしちゃったー?」
 首を巡らせれば、少し離れた場所に、上半身を起こした状態の影が一つ。あれだけの水音を立ててしまったのだ、忍であるこの男が気付かないはずもないだろう。
 男は、その顔にからかうような表情を浮かべた。
「お前、姫に恨まれるようなことでもしたんじゃねぇーのか?」
「ひどっ!そういう黒りんだって、寝てるサクラちゃんに蹴られたことあるクセにー」
「一度だけ、な。お前、今日ので何度目だ?」
 問われ、一瞬返事に詰まった魔術師は。明後日の方向を向きながら、短く答えた。

 

「……三度目」


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二度あることは三度あるのです。(笑) 黒鋼さんにも気取られないサクラちゃん、凄いです。

ファイさんだけ狙われる(?)原因は、彼のポジション取りの悪さ……かな。(苦笑)

 

 

 

aicon-hana07年の810日までがんばってくれていた話です。

 

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