拍手お礼A−1

(語られなかった世界7より)



 朝食の準備をしに台所へと向かったファイは、ダイニングにいた人影に声をかけた。
「あれ?早いねー、小狼君」
「あ。おはようございます、ファイさん、モコナ」
「おはよう、小狼!」
「おはよー。今から黒様と特訓―?」
 はい、と頷く小狼に、ファイの肩に乗っていたモコナが飛びついていく。
「大丈夫なの、小狼?昨日の特訓でもこんなに怪我したのに……」
 モコナが心配そうにするのも無理はない。日に日にハードさを増しているらしい黒鋼の特訓は、少年の身体のあちこちにいくつもの傷をつくっている。
 もっとも、そのハードさも小狼自ら望んだものだが。
「あ、そーだ!」
 ぽん、といかにも名案が浮かんだとばかりに両手を打ち鳴らした魔術師は。冷蔵庫を開けると、飲み物が入っているらしき筒を取り出した。
「はーい、小狼君、これ。どうしても特訓がきつい時は、黒たんに飲ませるといいよー」
「いえ、そんな!もしきついと感じるならそれは、おれの鍛錬が足りないだけですから。……でも、これは何なんですか?」
 尋ねる小狼に、ファイは満面の笑みを浮かべてみせる。
「前に牛乳ってヤツ飲んだの、覚えてる?この国にもそれに似たのがあったから、それを使ってスペシャルドリンクを作ってみましたー!」
「え!?ファ、ファイさん、でもそれって……」
「黒鋼が嫌いなヤツだー!」
「そういうことー。これを飲ませれば、さすがの黒りんもちょっとはヘロヘロに……――」
「……おい、そこの白いの二匹。聞こえてるぞ……!!」
 地の底から響くかの如き声音に、一同が振り返れば。
 怒りに握り拳を震わせる忍の男の姿がそこにあった。


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その時 小狼君が見たのは、1人と1匹の確信犯の笑みなのでした。(笑)

 

 

 

 

 

拍手お礼A―2

(語られなかった世界2より)

 

 

「え?特訓?」
「はい、どうしてもできなくて」
 “特訓”という言葉に、黒鋼は思わず歩いていた足を止めた。
 少し開いた扉の隙間から、室内の二人分の会話が流れてくる。少年と魔術師のもののようだ。
「この間も脱出する時にまごついてしまって……」
「あー、確かにそうだったみたいだねぇ」
「お願いします。こんな特訓、黒鋼さんにはお願いできなくて……」
「あはは、そうだね。黒りんは下手もんねぇ」
 ピンッ、と思わず黒鋼の片眉が跳ね上がった。
 なめられたものである。何の特訓かは知らないが、自分は剣技だけでなく、素手での攻撃や飛道具まで、一通りの戦闘術を身につけている。だというのに、それらを見もせずに「下手」などと決めつけられるのは、不本意極まりない。

「おい、お前ら!」
 バンッ、と大音を立てて入室してきた黒鋼に、室内の二人は驚きの目を向けた。
「あんまり俺を馬鹿にすんじゃねぇぞ!小僧が誰に教わろうが俺には関係ねぇが、俺だって一通りの技は身に付けてんだ!覚えとけっ!」
 一息でまくしたてた黒鋼に。返ってきたのは二つの笑顔。
「本当ですか!?黒鋼さんもできるですね!」
 一つは、期待と尊敬に満ちた笑み。
 そしてもう一つは。
「へー。そこまで自信あるなら、黒様に教えてもらおっかー。ウ・ィ・ン・ク」
「……は?」
 楽しげで、含みのある笑み。
「お、おい。ウィンクってまさか……」
「そ。この間オレが緊急時の合図にしよーって言ってた、こ・れ」
 魔術師がバチン、と片目を瞑ってみせる。
 しまった、と黒鋼は思ったが、もう後の祭りである。追い討ちをかけるように、生真面目な少年がペコリと頭を下げた。
「ご指導宜しくお願いします、黒鋼さん!」
 黒鋼は、背中を冷たいものが流れていくのを確かに感じた。


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★やっぱりウィンクって、人を選びますよね。(苦笑)

 

 

 

 

 

拍手お礼A−3

(語られなかった世界6より)



「あ、小狼君たち帰ってきたみたい」
 借家の玄関のドアが開く音に反応し、サクラが料理の手を止めて出迎えに行った。ファイは作業のキリが悪かったため、少し遅れて玄関の方へと向かう。
 と、廊下の途中で、師弟コンビを迎えに行ったはずの少女が、慌てたようにパタパタとこちらに引き返してきた。
「あれ?どうかしたの、サクラちゃん?」
「大変、ファイさん!急いでお料理の追加を作らないと!お客さんも一緒に来てるんです!」
「お客さん?」
 台所へと駆けていく少女の背中を見ながら、魔術師は小首を傾げた。確かあの二人は、剣の訓練に出ていたはずだ。道中、気の合う人物にでも出会ったのだろうか?
 とりあえず様子を見ようと玄関に足を向けた彼は、再び小首を傾げた。
「あれ?お客さんはー?」
 そこにいたのは、見慣れた二人と一匹のみ。どの顔も何ともいえない表情を浮かべている。
「いえ、それが……」
「俺たちは客なん連れてきた覚えはねぇんだが」
「サクラが二人を見ていきなり、『あ、お客さんも一緒なんですね』って」
 サクラにだけ見える客。となれば。
「つまり……幽霊?」

 シン……と一瞬の沈黙。

ゆっ幽霊って、どう対応したらいいでしょう!?」
「もーっ!黒鋼、何で幽霊なんて連れてきちゃうの!?」
「そうだ黒様―、ちゃんと責任とって何とかしてきて!」
「何で俺のせいになってんだよ!?そもそも見えねぇ奴をどうしろってんだ!?」
ーからとりあえず外に出て、家から幽霊を出して!」

 彼らの混乱など露知らず。少女は意気込んで料理の腕を振るっていたのだった。
「よーし!美味しいもの一杯作らくっちゃ!」



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サクラちゃんは無意識のトラブルメーカー?
 今回の拍手小話の全てで黒鋼さんにばかり受難があるような気がするのは、きっと気のせいです。(笑)

 

 

 

☆08年2月24日まで頑張ってくれていた話です。

 

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