「えーっと・・・・これは・・・『ナズナ』か・・・・・。」
「『セリ』があったよー!!」
「ネコ様ー『ゴギョウ』ってどんなのー?」
「えーと、『母子草』だったよね・・・うん、ちょっと細長い葉っぱだねぇ〜。先は丸いよー。」
「これかな?」
「そうそう!それそれ!!」
雪交じりの野原に、童子たちの声が響く。
「よーし、揃ったー!!」
「やったー!!」
万歳三唱をしているのを、大げさだと笑うだろうか。
―――――――――――――― * ―――――――――――――
その子は、城勤めの童子だった。
目の大きな、陽気な子。
そして真面目で、用事も一生懸命に務める。
「良い『城守り』になりますわ。」
知世姫も優しく微笑んで太鼓判を押していた。
しかし、天は時に残酷な道を用意する。
ふとした流行病に母親が仆れ、次いで父親が刺客の襲撃の中で命を落とした。
兄弟はその子が1番上で、下に2人。
末弟はまだ乳飲み子だった。
3兄弟は、遠くにいる親戚に預けられることになった。
「何とか君だけでも白鷺城に居れるように、って思ってたんだけど・・・・。」
「いいんです・・・・妹や弟の面倒を見るのは僕しか居ませんから。」
呟くように言ったその声が震えている。
その親戚がまだ諏倭に居るなら、ファイが訪れることもあっただろうが。
「『火の国』なんて。」
南の方、遙か離れた国なのだ。
別れの日、挨拶に来たその子に、仲間の童子たちは餞別の品を贈り、続いて椀を押し付けた。
「?!」
「七草粥!今日は七草の日だろ?」
「あ・・・・・。」
「ネコ様と一緒に七草を摘みに行ったんだ!」
「この粥は、ネコ様が作ってくださったんだよ!」
「これを食べたら、もう病気なんてしないさ!」
健やかに在れ、と。
少し鼻を啜り上げつつ、粥を口にした。
「・・・おいしい!」
「当たり前さ!ネコ様特製だもの!!」
「・・・ネコ様は?」
お礼が言いたい。
出発の時間は刻々と迫っている。
しかしファイは城中の何処にも居なかった。
「ごめん・・・ネコ様によろしくって言っておいて・・・・・。」
落胆した心のまま、馬車に乗り込んだ童子の前に、つむじ風が巻き起こった。
「?!」
「・・良かった!間に合ったね!!」
金糸が風になびく。
「ネコ様!!」
「寂しくなっちゃうけど、元気でね!いつかきっと、オレも使節として行く事もあると思うから・・・。」
「・・・・はい・・・・・。」
「ん、じゃ、これ。」
差し出されたのは。
「これは・・・・?」
「薬草。こっちが食あたり、こっちが風邪。それでこっちは滋養強壮。」
手にして呆然として。
はっと記憶の片隅に引っかかった。
「ネコ様・・・これ・・・もしかして?!」
「そ。諏倭に行ってきた。」
薬草といえば諏倭だもんねー!と。
「この風邪薬は結構珍しいよ〜〜。諏倭にしか生えないものだからね〜〜〜。」
「・・・そんな貴重なものを・・・・!」
「うん、その分、重いよ。」
期待が。
その貴重な薬草を与えられるほどの人になれ。
ぎゅ、と包みを握り締めた。
「頑張ります。絶対に、負けません。」
「信じ続ければ、いつかきっとネガイは叶う。絶対大丈夫だよ!」
「はい!!」
深々と礼をする。
馬車はゆるゆると動き出した。
「いつかきっと会おうねー!」
「約束だぞー!」
「元気でねー!!」
馬車の影が米粒のようになるまで、皆は手を振り続けた。
「・・・さ、オレ達も七草粥、食べようかー。」
何時までも見送る童子たちに声をかけた。
グイ、と袖で目をこすり。
鼻をスン、と啜り上げて。
童子たちはにっこりと笑う。
「うん、食べよう!」
風邪を引きませんように。
長生きできますように。
とびきりでなくていいから富貴な生活を送れますように。
皆が幸せになりますように。
「いっただきまーす!!」
白鷺城に、童子たちの唱和する声が響き渡った。
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