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「決まっているだろう?――己が必死につくった物が壊れるのを好しとする者が、どこにいる?」 聞いた瞬間、目の前の扉を思いっきり蹴り飛ばしてやりたい衝動にかられた。 なんでだろうな?これは別に、おれの生活してる世界に関わる話でもねぇってのに。Hey,Hey,自分、おれってこんなに偽善者キャラだったか? そう、自分で自分を笑い飛ばして、衝動に無理やり蓋をした。 Grope your way (10)そこにあるモノ、見ないフリ その後すぐに、おれとウソップは地下の部屋を後にした。必要最低限の情報は揃った、長居は禁物だ。 1階へ続く階段を上り切ってからは、どちらからともなく小声で口を開いた。話題は当然、ここにいるレディー達の麗しさ……といきたいところだが、ウソップ相手じゃ語るだけ無駄だから、さっき盗み聞きした眞王(しんおう)とムラタの会話について。 聞き出したそれらをルフィとチョッパーにも伝えるという結論は、おれ達の間ですぐに出た。ルフィの奴がどこまで判っていたかは不明だが、あいつも眞王の言葉に何かしら嘘を感じ取ってたみてぇだからな、伝えておくべきだろう。 「けどよ……、さっきあいつらが言ってた『危険な事態』ってのは、ほんとに起こると思うか?」 ビビってるとまでは言わねぇが、明らかに不安そうな顔でウソップがおれを見てくる。 無論、レディ相手じゃねぇから、奴のそんな不安は綺麗サッパリ黙殺。客観的推測をズバリ言ってやる。 「起こると思ってた方がいいだろうな。じゃなきゃ、おれ達をこの世界に呼んだ意味がねぇだろ」 「そう……だよな。やっぱり」 「阿呆、なんつー顔してんだよ。長っ鼻がますます長くなるぞ」 「って、どんな顔だそれは!」 「――で、その“緊急事態”におれ達がどうするかは、ルフィを抜いたおれ等だけで話し合うことでもねェだろ」 あんなんでも一応、船長だからな。 付け加えれば、うざったいツッコミを入れていたウソップの片手が力なく落ちた。それを追いかけるように、長い鼻の先端も下を向く。 「……そうだな。それじゃあ、合流したらすぐにルフィ達に相談……――」 「それはやめとけ。ユーリ達にもこの話を聞かせる気か?」 低い声で斬って捨てながらも、おれは視界に入ったキュートな巫女のレディー達には笑顔で手を振る。 ここまででも既に5人のレディー達とすれ違ったが、当然おれは全てに同じ対応をしていた。さすがに今は話し合いを中断するわけにはいかねェから、行きのように彼女達に話しかけることまではしないが、麗しい存在を無視して通り過ぎるなんて失礼なこと、おれにはできねェ。 それに、あまり深刻な顔で通り過ぎると、彼女たちの柔らかなハートに“不審感”なんて重荷を負わせちまうかもしれないからな。無駄かもしれねェが一応、会話の中にもあえて『眞王』の名は出さないようにしている。 「この国の奴らにとっちゃ、“アイツ”は神みてェなもんなんだろ?その神サマが、実はあんな奴だったなんて知りたいか?」 『俺は、この国に傷ついて欲しくない。それだけだ』 『実に国想いな王様らしい発言で結構だけど、それは、この国に生きる人達のため?それとも――自分の創った国だから?』 『決まっているだろう?己が必死につくった物が壊れるのを好しとする者が、どこにいる?』 「そっか。そりゃあ、ちょっとショックかもな……」 ウソップが複雑そうな表情で目を伏せる。が、すぐにハッとしたように再びおれを見上げてきた。 お前ほんとに忙しい奴だなぁ、百面相か?レディだったらめちゃくちゃ可愛かっただろうに。 「けどっ、危険な事態が迫ってるかもしれねェってことも、黙っておくのか!?事前に分かっていたら、ユーリ達も何か対策を」 「講じられるか?『何か危険が迫ってるかもしれない』なんて、情報が漠然とし過ぎてる。逆に不安を煽るだけだろ。それにもし、ユーリ達が事前に知っておいた方が得策なら、
“アイツ”はさっき直接ユーリ達に伝えたはずだ。動機はクソムカツクほど自分本位だが、“アイツ”はこの国を悪いようにしようと思ってるわけじゃねェみてェだからな」 言わなかったということはつまり、ユーリ達に伝えてもどうしようもない事態だということだ。 「出来ること」と、「出来ないこと」。自分たちの力では防ぎようのない危険が迫っているだなんて、下手をすれば、わざわざ伝えることの方が寧ろ酷だ。 「ルフィとチョッパーに話すのは、おれ達だけになった時だ。いいな?」 念を押せば、ウソップが納得したように無言で小さく頷いた。 よーし、これでコイツとのむさっ苦しい話し合いは終了だな。んじゃあ、おれは遠慮なく周囲のレディー達に……――。 「なぁ、サンジ」 って、まだあんのかよ、長っ鼻!! 「お前自身としては、どう思ってるんだ?」 「あぁ?何が?」 応える声は当然ぶっきらぼうに。けれど、表情にはとびっきりの笑顔を浮かべて、数歩先に立っている兵士のレディーに手を振る。 麗しい見た目に反し、片手には薙刀。そのアンバランスさがまた魅力的だ。 「もし本当に、――こんな言い方するとスゲェ自惚れてるみてェだけど、おれ達じゃないと解決できねェような危険な事態が起こったとして。サンジ自身は、どうしたいんだ?」 「“アイツ”の思惑通りに動くなんざ、おれは御免だ。――けど」 おれに手を振られた彼女が、ピクリと片眉を上げる。ただそれだけ。微笑み返してくることもない。 そのつれない態度も、職務に忠実な鋭い顔つきも、実に愛らしい。 「『けど』?」 「この国の素敵なレディー達が困ったり悲しんだりする姿を見るのは、もっと御免だ」 一拍の間を置いて、「お前らしいな」とウソップの声が返る。見れば、そいつはまるで、素直じゃないガキを微笑ましく見守る大人のような顔をしていて。 だからとりあえず、おれはそのひょろりとした背に蹴りを一発入れておいた。 「おせーぞ、サンジ、ウソップ!おれもう腹ペコだぞぉ……!!」 おれ達が廟の入口を抜けると、腹に手を当てだらしなく舌を出しているルフィが一番に文句を言ってきた。その隣には、心なしかグッタリした様子のチョッパー。説明されるまでもない、迷走するルフィに振り回されたんだろうな、――……合掌。 結局ウソップと会話をしている間に、ここまで辿りついちまった。クソ、レディー達との心躍る交流がこれっぽっちもできなかったじゃねぇか、おしゃべり長っ鼻め! 「結構時間かかったみたいだけど、探してたものは見つかった?」 おれが横目でウソップを睨みつけていると、ユーリが心配げな顔で声をかけてきた。 相変わらず王様らしからぬ細かい気遣いをしてくるイイ奴だとは思うが、この表情をしてるおれにも普通に話しかけてくるなんざ、なかなか強者だな、ユーリ。 「あぁ、悪い。案外見つからなくてな。でもお蔭でちゃんと回収できた。ありがとな」 「そっか、ならよかった」 ほっとしたように笑うユーリの後ろでは、コンラッドがどこか物問いたげな眼でおれを見ていた。思わず舌打ちしそうになるのをグッと堪える。 この様子からして、あいつにはバレてんだろうな――少なくとも、「落し物」については嘘だって。だが、おれがあえて視線に気付かないフリをすれば、向こうも特に口を開いてはこなかった。 「あれ?そういや、一人いなくねぇか?」 おれの睨みから解放され、大袈裟にも安堵の息を吐いていたウソップが、不意に声を上げる。 「ほら、キラッキラした金髪の、えーっと……」 「ヴォルフラム?」 「そう!そいつ!」 言われてみれば確かに、あのキャンキャンうるせぇ金髪坊っちゃん(念のため言っとくが、おれのことじゃねぇぞ)の姿がない。 おれも目顔でユーリに問えば、どうやらあいつはおれ達とは別の場所に馬を繋げているらしく、先にここを出発したらしい。 「血盟城(けつめいじょう)で、また合流するって言ってた。あいつ、ほんとは今、自分の領地に帰省中だったんだけど……」 ユーリ曰く、「こんな時にゆっくり自領で休暇などとっていられるか」と言い放ったらしい。 なんつーか、あの金髪坊ちゃんは生意気なんだかしっかりしてるんだか、よく分かんねぇよなぁ。……ま、おれに対する態度は明らかに最悪だが。 そんな金髪坊っちゃんの不在に加え、先導してくれていた小さい巫女のお嬢ちゃんの見送りもここまでらしく、結局おれ達は来た時と同じメンバーで山道を引き返すことになった。 「はぁー、よーやく飯だな!腹いっぱい喰うぞー!特に肉!!」 先頭をズンズンと突き進むルフィが、暢気に背伸びをしながらご機嫌な声を上げる。 馬を繋いだ地点までは一本道。ルフィの方向音痴もさすがにゾロほどじゃねぇから今は道に迷う心配はねぇし、ようやく念願の食事にありつけるってんだから、ルフィのこんな態度もある意味当然だ。だが、おれとウソップはさっきの事があり、そう浮かれてもいられなかった。 その証拠に、おれは眞王廟を出発することを少ししかゴネなかったし(ゴネたくなるのは男として当然だろ!あそこは麗しきレディーだらけの秘密の花園だぞ!?)、ウソップに至っては、チョッパーにまで「何かあったのか?元気ないぞ?」なんて言われちまうぐらい、ずっと態度に出てやがる。 そんな空気の中、見事にそれらをスルーし「に~く!に~く!」と歌まで歌い出したルフィに、コンラッドが笑顔で徐に口を開いた。 「肉もいいけど、野菜も食べやさい」 「……」 一瞬にして、おれたちの間を風がすり抜けた。もちろんそれは爽やかな春風なんかじゃねぇ、極寒の冬島の寒風だ。 また言った?なぁ、こいつ、また言ったのか!?せっかくおれ達が城でのことは聞き間違いにしておいたのに、それも水の泡にしようってのか!? 反応が無いおれ達を不思議そうに眺めたコンラッドは、少し考えるようにして再び口を開いた。 「肉もいいけど、野菜も……――」 「あー!いいから、コンラッド!さっきのでちゃんと聞こえたから!……っていうか、どうしたの急に?」 やはり免疫のある奴は強い。真っ先に立ち直ったユーリが恐る恐るといった具合に問うと、コンラッドは信じられないほど爽やかさ全開の笑顔を浮かべ、ウソップとおれの方を見る。 「チョッパー君の言うように、確かに元気が無いみたいだったから。笑って少しでも元気を出してもらおうかな、と」 おいおいおい、ちょっと待て。 この状況でそんな笑顔浮かべられるのもスゲーし、気遣いはありがてぇけど、分かってるか?それって自分の駄洒落で相手が笑ってくれると信じて疑わない発言だぞ? 思わず呆気にとられていると、耳に何やら別の声が届いてくる。意識を引き戻せば、それはルフィの声で、いかに野菜より肉の方が美味くて力が出るかをコンラッドに力説するものだった。どうやら今の発言が駄洒落だと気付いてねぇらしい。それはそれである意味大物だが、裏を返せば単なる鈍感キングだ。 ……あぁ、いや。でもそうだよな。思い返せば出会った時、コンラッドの奴は、ぴたぴたジャージを着た護衛(略して「ピタジャー護衛」)だったじゃねェか。あの時点で既に、「俺は変人です」って自らアピールしてくれてたようなもんだよな。 そんな奴に嘘を見抜かれたり、そのことを警戒してる自分がすっげーバカらしく思えてくるのは気のせいなのか?そうなのか? 半分現実逃避気味に、五時間ほど前やついさっきの記憶を引っぱり出していると、隣でウソップがボソリと呟いた。 「……なんつーか、ここの奴らってみんな、見た目と中身のギャップがスゲーな。色んな意味で」 おれが無言で頷くと、隣にいたチョッパーがおれと全く同じタイミングで全く同じ動作をしていた。 ……ホント、見ないように逃げていても、やっぱりいつかは無理やり直視させられるもんなんだな、真実って。 |
あとがき 約1年ぶりの更新だなんて…!毎回、更新に間が空いてしまってすみません。久しぶりに書くと、この文体のテンションがなかなか思い出せないという残念さ…。(苦笑) 今回からサンジ君視点の文体に戻りましたが、彼が表面的に語っていること全てが本音とは限らなくて、「こう言ってるけど実は……」みたいな部分もいくつかあります。でもそれを説明しだすと、また長文なあとがきになってしまうので(笑)、その辺りは読みながら推測してみてください♪ そして今回、コンラッドさんは無事に極寒の駄洒落魔人に認定されました!(笑)……コンラッドファンの方、ごめんなさい。でも原作でも、彼は駄洒落に関しては基本的にこんな感じ……ですよね?(笑) |
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