「へぇ、そうか!お前、王様だったのかー」 案内されたクソでけぇ城の一室、執務室。 そこに響いた今更なその台詞は当然、ウチのクソゴム船長(キャプテン)だ。 Grope your way (4)とりあえず結論を一つ 「血盟城(けつめいじょう)」なんて、なかなかに物騒な名を持つその城は、外観からの想像通り、かなりの広さだったが、名前のようなおどろおどろしさはねぇし、装飾なんかもそれほど華美ではなかった。 そりゃあ、床はお約束の大理石だし、天井もホールかと突っ込みたくなるほどの高さ。廊下の所々に置いてある花瓶や、ぶら下がってる絵画も、きっとそれなりの値がするだろう。ナミさんだけでなく芸術好きのウソップも喜びそうだ。そう、言うならば趣味のいい豪華さってヤツ。 ほら、たまにあるだろ?どこもかしこも金ぴかで宝石だらけの城や屋敷。あれはあれで圧倒はされるが、正直あんまりいい気はしねぇ。おれはどっちかっつーとこの城の雰囲気の方が好きだな。 だが、訊けば、そういう傾向になりだしたのは最近らしい。以前は壁も金箔で覆っているような城だったらしいが、ユーリがそれを止めさせて、浮いた分を教育制度等に回させたらしい。結構いい王様をやってるみてぇだ。まぁ、本人は、 『おれは提案しただけだよ。ほんとに凄いのは、そのための費用を捻出して、具体的な実行に移してくれた人たち』 とか言って苦笑してたが。 何となく、その顔にビビちゃんのお父様を思い出した。あの王様ほどの威厳はまだユーリにはねぇが、考え方や一般人にも近ぇ感じが、少し似てる気がする。 今もユーリはおれたちと同じ、執務室の中央に鎮座している六人掛けの長机に着いていた。その長机の更に奥には、おそらく魔王専用だろうデケぇ立派な執務机があるんだが、おれたちと距離が開くからと、椅子だけ引っ張ってきて同じ長机を囲んでいる。 「うん、まぁね。でも、二人が海賊だってことにも驚いたよ。イメージと全然違う」 今更なルフィの発言にも笑って答えるユーリは、既にマリモカラーのジャージから全身黒い服へと着替え済みだった。ガクランとかいうらしい。 濡れていたおれたちも着替えを勧められたが、タオルを借りるだけにして断った。その時点で既にほとんど乾いていたし、そもそも非常に不本意ではあるが、カナヅチメンバーの救出なんてしょっちゅうだからな、服ごと濡れるのには慣れちまってる。その後にちゃんと落ち着いて着替えられたことの方が少ねぇし。 護衛だからか、椅子には座らずユーリの傍らに立っているコンラッドも、今は微妙過ぎるぴたぴたジャージから、軍服らしきものへと着替えていた。サイズも今度はちゃんと奴にジャストフィット。 本当、二人の名前が分かっていてよかった。そうじゃねぇと、ジャージを着てなくても「ジャージ陛下」とか「ピタジャー護衛」とか呼ばなきゃいけなかったもんな。 ユーリの言葉に、ルフィは小首を傾げた。 「そうか?海賊ってこんなもんだぞ?歌うしな」 「そりゃお前の勝手なイメージだろ」 誤解のねぇように、一応軽く突っ込んでおく。歌わねぇ海賊団だってあるからな。 本当、ルフィはどこまでもルフィだった。既に大体の状況説明は済ませてあるが、“不思議渦に巻き込まれてどっか遠い所に来ちまった”、ってのが奴の結論だ。しかも、「来ることができたんなら、還ることもできるだろ」と、自信満々に言い切ってみせた。まぁ、だからこそのこのマイペースっぷりなんだろうが。寧ろ、見知らぬ国を楽しんでる風もある。 今も、ルフィは椅子に座った足をブラブラとさせながら、興味津津とばかりに表情を輝かせてユーリを見ている。 「けど王様かぁー。おれはな、海賊王になるんだ」 「海賊王?君も王様に?」 「なんと素晴らしい!!」 そこで感嘆の声を上げたのは、さっきからルフィの向かいの席で、ルフィの一言一句にうっとりとしていた男だった。 「陛下の輝きとはまた異なる、美しく艶めく漆黒の御髪!好奇心に輝く闇の瞳!その麗しさ、尋常な方ではないとお見受けしておりましたが、やはり崇高なる地位にいらっしゃる御方だったのですね!あぁっ!こんなに素晴らしい双黒(そうこく)の現人が目の前に御二人もいらっしゃると、私(わたくし)、あまりの眩さに眩暈が……はぶっ!」 おいおい、ルフィのことを「麗しい」とか言ったぞ、コイツ。ちなみに最後の奇声は、奴の鼻血が噴出した音だ。 普通にしていればこの男、実はそう悪い顔じゃねぇ。知的そうな薄い紫の瞳、腰を超える長さの銀に近い灰色の髪は、キューティクル命とばかりに輝いている。そして信じられねぇことには(というか、おれはそんな事実ぜってー認めねぇが)、レディー達を差し置いて「この国一の美貌」とか言われている奴らしい。年齢は、フランキーと同じぐらいか。 が、それらはあくまで、“普通にしていれば”の話だ。 説明係コンラッドの話によると、こいつは相当の「双黒フェチ」らしい。先に部屋に足を踏み入れたユーリを迎える姿も、孫に目がねぇ爺さんみてぇな興奮っぷりだったが、続いて入ってきたルフィを見た途端、奴は言葉にならなかったのか、顎が外れたんじゃねぇかと思うくらいパカッと限界まで口を開け、ドバッ!と鼻血を噴出させた。それが止んだと思ったら、今度は「新たな双黒の御方と出会えた喜び!」とか何とかで、感激の涙と鼻水で床を濡らす始末だ。おかげで、せっかくの大理石は汁だらけ。 名前は「フォンクライスト卿ギュンター」とかいうらしいが、おれは既に、胸中では「汁男」と呼ぶことに決めている。 「ギュンター、ちょっとは落ち着きなよ。ほら、ティッシュティッシュ!」 「あっひゃっひゃっ!おっもしれぇなぁ、コイツ!女に会った時のサンジみてぇなこと言ってるぞ!」 「ふざけんなルフィ!こんな“汁男”とおれを一緒にすんじゃねぇ!!」 あ、思わず口に出しちまった。 まぁ、当の本人は相変わらずルフィとユーリにうっとりで、おれの発言なんざ耳に入ってねぇみてぇだから、問題は無さそうだが。 「話が脱線しているように思うのは私(わたし)だけか?」 重々しく響いた不機嫌そうな声。思わず、ルフィ以外の全員が一瞬、動きを止めた。 その声の主はおれの向かいの席に座っていて、やっぱり表情にも不機嫌さを惜しげもなく滲み出している。眉間にはこれでもかと深い縦皺。冗談抜きで紙が何枚か挟めるかもしれねぇ。 この男は(本当、これでもかと男ばっかり登場しやがる。レディーはどうした、レディーは!?今のところ唯一出会えたのは、タオルを持ってきてくれた可憐なメイドさんだけだぞ!)、「フォンヴォルテール卿グウェンダル」。はっきり言って、この国の奴らの名前は複雑な上に発音し辛いから、おれは胸中では「縦皺男」と呼ぶことにしてるが。 おれたちみてぇな不審人物で、しかも「職業=海賊」がいきなり乗り込んできた故の不機嫌かと思ったら、どうやらソイツはいつでもこんな表情らしい。黒に近い濃い灰色の髪を後ろで一つに縛り、細められた青い目はやっぱり不機嫌さ全開。そんな凶悪そうな顔で、おまけに口数まで少ないもんだから、言うなればコイツの方がずっと魔王のイメージには近い。年齢は汁男より下かもしれねぇが、貫禄は遙かにこっちの方がある。 でもまぁ、こうして不機嫌ながらもおれたちに協力してくれようってんだから、さすがに文句は言えねぇ。もっとも、“魔王の御意思”ってヤツで仕方なく、ってことなのかもしれねぇけど。 「あぁ、悪ぃ。要するに、『眞王(しんおう)』ってのはこの国を創った奴で、死んじまった今でも、魂として眞王廟(しんおうびょう)ってところに居座ってる、国民の信仰の対象。おまけに、その眞王がお前の……」 言って、上座にいるユーリを見る。 「異世界移動の手伝いをしてる。ちなみに今は、おれたちが会えるように眞王にアポ取り中……で、OK?」 おれなりにこれまでの話を纏めてみせれば、ユーリが驚いたように「呑み込み早いね」と暗に肯定した。縦皺男も、無言ではあるが小さく頷く。ま、おれが本気を出せばこんなもんよ。しつこいようだが左隣の船長は、この手のことじゃ頼れねぇからな。 けど、はっきり言って理解なんて全くしてねぇ。魂がまだ残ってる?確かに「廟」といやぁ、先祖の霊を祭る所だが、その魂が人間の手助けをするなんざサッパリだ。あ、人間じゃなくて魔族か。 けどまぁ、考えても仕方ねぇから、幽霊みたいなもんだろうとザックリ解釈しておく。スリラーバークにもキューティーちゃんのゴーストがいたしな。とにかくこの世は何でも有りなんだよ、うん。 ……この悟りの境地に至るまでの経緯を考えると、自分をすげぇ褒めてやりたくなるな、おれ。 「だが、移動の“手伝い”ってのはどういう意味だ?主体的には自分たちで何かやらなくちゃならねぇって事か?」 頭を本題の方に切り替えて問えば、向かいから重低音で問い返される。 「お前たち、魔力はあるか?」 「は?」 また出たよ、独特異世界ワード。ここまでくればもう、さすがに「マリョク」は「魔力」って勝手に脳内変換できるが、いまいちピンとこない。要するに魔法みたいなもんか?や、魔法も実際に見たことはねぇけどよ。 「いや、そんなもんは……」 「ねぇぞ。おれは悪魔の実なら食ったけどな」 「悪魔の……実?」 「何と!やはり貴方様は魔族でいらっしゃるのですか!?」 不思議そうにするユーリと、過剰反応の汁男。まったく、今はこっちの身の紹介より、情報収集の方が重要だってのに。 ゴムの能力を見せようと、自分の頬を引っ張ろうとするルフィの手をすぐさま捕まえる。 「ルフィ。頼むから話をややこしくすんな!」 「何でだよ?おれは普通に話してるだけだぞ!」 「そりゃ、お前はそうかもしれねぇけど、とにかく今は……――」 「魔力はどちらにも無い。……それでいいんだな?」 またしても響いた腰にくる重低音で、おれの台詞は遮られる。いつもこんな風に不機嫌そうだとは言われても、さすがにちょっと、最初に会った時より纏う不機嫌オーラが濃くなってねぇか? 「お、おう。そうだ。魔力もねぇし、魔族でもねぇ。悪いな、また脱線しちまって」 ご機嫌取りとは言わねぇが、おれの中では比較的友好的に見えるであろう部類の笑顔を浮かべておく。この状況で貴重な協力者に見放されるのは、例え一人だってかなりの痛手だ。 助け舟と言わんばかりに、それまで黙っていたコンラッドが穏やかな口調で参加してきた。 「陛下は移動をする際、ご自分の魔力を使っているんだ。そこに、眞王陛下のサポートも入るってわけ。だから君たちに魔力があるのかどうか確認した……そうだろ?グウェンダル」 コンラッドに問われ、縦皺男が「あぁ」と頷く。だったら初めから分かりやすくそう言ってくれ、とは勿論胸中だけの呟きだ。 っていうか、どこまで口数が少ねぇんだこの男。正確なコミュニケーションを取るには通訳必須って、結構不便だぞ。 「つまり、魔力ってのが無ェと、世界を移動できねぇのか?」 「まぁ、眞王陛下ほどの御方なら、ご自分の魔力だけで君たち二人を元の世界に還すことも可能かもしれないが……」 そこで一旦言葉を切ると、コンラッドは小さく苦笑する。 そうだよな、あんたはいつでもそういう冷静キャラなんだもんな。少なくとも、この短時間の付き合いで判るぐらいには。 「これはあくまでも、希望的観測にしか過ぎない」 「あぁ。分かってる」 残酷だが、ある意味正直な奴だ。人のいい少年魔王といいコンビかもしれねぇ。 と、不意にルフィがズイっと片手を挙げた。つまりは挙手。 「サンジ、ちょっと質問」 「あ?おれにかよ?」 おれの教わった情報は、ほとんどルフィには話してやったんだが。これ以上を求められても無ぇぞ。 「おれ、溺れたまま夜中(よるじゅう)ずーっと寝てたのか?」 「夜中?何で?」 「だって今、朝だろ?」 デケェ執務机の背後にある、これまたデケェ硝子張りの窓を指さされ、はっとした。 そうだ、あの嵐前の海は夕方だった。そして、流された先の庭にやってきたマリモジャージの二人組がしていたのは、“早朝”ランニング。だが、おれたちはそう何時間も渦に巻き込まれていた覚えはない。というより、そんな目に遭っていたら、おれもルフィもさすがに死んでる。 しまった、分からねぇことが起こり過ぎてて、こんな単純なところを見落としてた。 「なぁ!もしかしてこっちとあっちじゃ、流れてる時間が違うのか!?」 実体験者であろうユーリに問えば、やはり頷く。 「ごめん、おれも忘れてた。確かに此処ともう一つの世界は、流れてる時間が違うよ。でもおれの場合は大抵、眞魔国で流れる時間の方が早いんだ。こっちに五日いても、日本では十秒ぐらいしか経っていなかったりするし。だからおれとしては問題なくて、タイムラグのことなんて忘れてた」 ほんとにごめん、と繰り返すユーリには首を振ったが、頭の中はその問題で一杯になる。 ユーリと同じ条件なら、この世界に一日いたとしても、グランドラインでは二秒しか経っていないことになる。だが、コンラッドじゃねぇが、それはあくまで眞魔国と日本での話だ。グランドラインとこの眞魔国のタイムラグは、おそらく実際に還ってみねぇと分からねぇ。 クソ。結局まだ、現状は曖昧なことばかりだ。とにかく一秒でも早く還らねぇと……――。 ガシャンッ!! 「!?」 「何だ!?」 突然部屋に響いた、陶器の割れる音。 全員に緊張が走り、音の発生源を振り返る――。が。 「待ってくれコンラッド!」 剣を抜いておれの脇を駆け抜けようとした護衛を、すかさず止めた。 信じられない。 だが。 「ゲホッ!ゲホゲホ!いっててて……」 「ゲホッ、ゴホッ!何だ?おれ、渦に、巻き込まれた、ような、……」 床に落ちて派手に割れている、部屋の隅に飾られていたデカい花瓶。 その陶器の破片と花と水にまみれて、床にへばりついているのは。 「ウソップ!チョッパー!」 隣から、ルフィの嬉しいんだか驚いたんだかよく分らねぇ声が上がった。 そう。そいつ等はどっからどう見ても、見慣れた鼻の長い一人と、人獣型の一匹。 何故だ? ルフィの声に反応し、それぞれが顔を上げる。 「あっ!ルフィ!サンジ!よかった、二人とも無事だったんだな!!」 「だからいつも言ってんだろ、チョッパー。心配すんのは分かるが、カナヅチのお前まで飛び込んでも……って、此処、何処だ?」 どこからどうツッコみ、何から説明したものか。パニックが再来しかけたおれの視界を、濃灰色が素早く通り過ぎた。縦皺男だ。 「おい!ちょっと待て!そいつ等はおれたちの仲間で……」 慌てて止めようとしたが、既に縦皺男はびしょ濡れの二人の前に仁王立ちしていた。纏う荘厳な雰囲気と降り注ぐ視線に、ウソップが「ひぃっ!」と小さく悲鳴を上げ、チョッパーの顔からは血の気が引いていく。 男はそのまま、丁度チョッパーの正面にしゃがみ込んだ。 「おい待て!だからそいつ等は……――」 「抱っこさせてはもらえないか」 「そう!抱っこ……。は?」 既に駆け出していた足を止め、おれは思わず自分の聴覚を疑った。 誰が、何を、抱っこだって? 疑問をそのままに、よくよく縦皺男の表情を見れば、心なしか眉間の皺の数が減っているような気がした。何より、響いたさっきの声には、重低音ながらも慈しみにも似た音が混ざっていなかったか。 言われた当のチョッパーも、この凶悪強面からは想像もつかない発言に、今度は違う意味で完全に固まっている。 剣を鞘に納めたコンラッドが、微笑ましそうに笑いながら言った。 「グウェンダルはああ見えて、小さくて可愛いものが好きなんだ。自ら編みぐるみで作ってたりもするしね。子猫とか子豚とか」 「へ、へぇ……。あいつが編みぐるみ、ね……」 まだまだ不明な点は数えきれねぇが、とりあえず一つ分かったことがある。 要するに、ユーリの言ってた通り、この国には一癖も二癖もある変人しかいねぇってコト。 |
お題:「はちゃめちゃギャグ(ワンピinまるマ)」 |
あとがき というわけで、まるマチームとワンピチームから2名ずつ追加。(笑)まるマメンバーはまだ増えますからね、まるマをご存知ない方は把握するのが大変かもしれませんが……お付き合いいただけると嬉しいです。逆にまるマをご存知の方は、分かりきった、あるいは懐かしいネタのオンパレード状態かもしれませんが……これまたお付き合いいただけると幸いです。(←をい。) 眞魔国の変人さんたち。コンラッドは違う?いえいえ、だってあの人、堂々とピタピタジャージですよ?(笑)それに彼には、究極のマイナスポイントがありますからね。(大笑)まぁ、それをこのシリーズで出すかはまだ決めていませんが、出せるシーンが見つかれば是非やりたいです。(←酷っ。)
※チビキャラアイコン配布元:「GREEN NOTE(管理人:えびお様)」様 |