見上げた空は青く、太陽は眩しくて、雲は白かった。

 異世界とやらでも、空に在るものは同じらしい。

 見上げた空が黄緑だったり、太陽がショッキングピンクだったり、雲が黄色と橙のストライプとかじゃなくて、本当によかった。

 

 ……あぁ、でも。それはそれで、絵に描いたら配色的にはちょっと面白いかもな。

 

 

Grope your way

 (7)表と裏

 

 

 普段よりも視線の高い馬上から見える景色は、実に見晴らしがよかった。一本道の脇に並ぶ常緑樹、その先は草原や畑で、所々に花や実の鮮やかな色が覗く。更に遠くには、山。そしてその向こうに広がる、グランドラインと同じ様相を持つ空。

「お前も雲が食べ物に見えてんのか?」

うっお!

 突然かけられた声に、おれは危うく馬から落ちかけた。慌ててバランスを取れば、大人しくしていろとばかりに、馬が尻尾を一際大きく揺らす。悪い、悪い、でも今のはおれは悪くねェと思うぞ?元凶はちゃんと別にある。

 いつの間にやら隣に並んでいたサンジという名の元凶を、おれは軽く睨んだ。

「驚かせるなよ、危ねェな」

「お前がぼーっと空を見てるからだろ、アイツみたいに」

 手綱から手は離さず、視線だけでサンジが前方を指す。

 そこには相変わらず腹をすかせているルフィがいて、風に流されては形を変えていく雲を指差し、次々に色々な食べ物に例えていた。隣に並んだ、サンジを振った馬に乗るユーリも(ユーリは最初、この馬に乗るのを相当恥ずかしそうにしていた。まぁ、チョッパーを介してとはいえ、あんな台詞言われちゃ、無理もないかもな。)、そのまた隣に並ぶチョッパーも、ルフィの例えに可笑しそうに笑っている。

 チョッパーと一緒に乗っているコンラッドは、そんな二人と一匹を微笑ましそうに見ていた(人獣型のチョッパーなら、誰かと相乗りでも充分だろうということになり、結局馬は城に一頭残してきた。ちなみに相乗り相手がコンラッドになったのは、彼が乗馬上級者だったからだ。決して、あの強面長身男と同じく小さいもの好きだったから、なんて理由じゃない。)。

 

「……無理、してんのかな」

 前を行く三頭のうち、黒い馬を見詰めた。正確には、その背に乗る人物の横顔を。

 隣から、「あぁ?」と声が返る。

「あー、いや。……別に、会ったばっかりだし、こんなこと言うのも変な話だけどさ。何かユーリ、無理して笑ってんのかなー……って思って」

 

 

『なぁ。さっき言ってた「ムラタ」ってのは……?』

 城門をくぐってから約五分。おれは、遠慮がちにだが、先を行くユーリに訊いてみた。

 

 城を出る直前に、その名は出た。ユーリ以外の奴には「猊下(げいか)」って呼ばれてるみてェだが。

 顔を洗うついでに頭まで洗えますとばかりのツルピカな頭部の兵士が、慌てて持ってきた書状。その中身を聞いたユーリは、一瞬は取り乱したものの、すぐに「このことも、眞王(しんおう)に会って訊いてみる」と言って、そのまま馬を出発させた。

 

 忠誠を誓う黒い馬に揺られながら、ユーリが応える。口調は穏やかだ。

『村田は、おれの大事な友達だよ。おれと同じ双黒(そうこく)でさ、日本と眞魔国とを行ったり来たりしてる』

『じゃあ、さっきのまだ到着してねェってのは……』

 呟くように言ったサンジに、ユーリが頷いた。

『うん。村田は今朝、日本からこっちに……眞王廟(しんおうびょう)に来る予定だったんだ』

 だが、遅れて渡された手紙によれば、ソイツはまだ眞王廟に到着していない。

 そして、おれ達がこの世界に流されてきたのは、今朝

『それって、もしかして……』

 もしかして、おれ達が来たことで、そのムラタって奴の移動に何か影響が出ちまったんだろうか。

 だが、おれがそれを言葉にする前に、ユーリが首を振って遮った。

『まだそうと決まったわけじゃないよ。だからこうして、ウソップさん達のことといっしょに眞王に話を訊こうとしてるんだし。もしかしたら、急に日本で用事ができたってだけかもしれないしね。だから、そんな顔しないで』

 言って、ユーリが笑う。

『大丈夫。村田はおれと違って、すっごく頭いいんだ。この国のことも、おれよりずっと知ってる。だからもし、何かあったんだとしても、村田ならきっと何とかするよ』

 

 でも、だからって、平気なわけじゃないだろ?

 大事な友達が、行方知れずなんだから。

 

 

 

「無理して……、ね」

 呟いたサンジは、そのことに対して否定も肯定もしてこなかった。

 代わりに吐き出された息は透明で、コイツが煙草を銜えてないのは珍しいよな、とどこか頭の隅でぼんやりと思う。理由は煙草がまだ乾いていないからだろうが、この際、禁煙でもすりゃいいのに。チョッパーもきっと、安堵するだろう。

 サンジの片方だけ覗く目が、暫くユーリを眺め、そしておれに向く。

「もしそうだとしても、ムラタとやらの居所なんて、おれ達がどうにかしてやれるような問題じゃねェだろ?」

「そりゃそうだけどよ……」

「分かってんなら、わざわざ無い頭で考えんな。十ベリーハゲができるぞー」

 最後はからかうように言って、サンジが離れていった。

 このおれのフワフワでフサフサの髪を前によくもそんな台詞が言えたもんだと思うが、アイツなりにおれを気遣ってくれたことは分かる。アイツが、ユーリのことを全く気にしていないわけじゃないということも。

 だから抗議は、「うるせ」と小さく呟くだけに止(とど)めておいた。

 

 

 

 ここから先は馬では通れないと告げられたのは、城の裏側にあたる山の中腹まで来た時だった。

 近くの樹にそれぞれ馬を繋ぎ、そこから山道を歩くこと数分、その建物は姿を現した。

「廟って、こんなにでっかいもんなのか?」

 礼拝堂とか教会とか、とにかくこじんまりとした建物をイメージしていたおれは、見上げる高さのそれに呆然とした。祀ったり祈ったりするのが目的なんだから、一階建てでも充分だろうに、二階分もオマケが付いた三階建てときた。

 しかも、廟を取り囲むようにして広がるのは庭園。手入れの行き届いた植物たちが、陽の光を反射して緑の鮮やかさを一層増す。

 こりゃあ、ここに祀られている眞王ってのは、おれの想像している以上に物凄ェ奴なのかもしれない。そうじゃなきゃ、こんなに気合を入れた廟なんて造らないだろう。まぁ、素材自体は石のブロックを積み上げた感じで質素だが。しかもよく見ると、いかにも素人さんが頑張りましたって感じの、涙ぐましいヒビ割れ修繕や塗り直しの跡があったりするけど。

 庭園を抜けながら、「修繕手伝ってやりてェなぁ」なんて、元船大工代理の血が騒いでいたおれは、廟の入口に立つ人影に気づくのが遅れた。

 

「えっ!?村田……と、ヴォルフ!?」

 

 は?「ムラタ」!?

 前方から上がったユーリの叫びに、慌てて視線を廟の外壁から外した。皆の注目が集まっている先を追えば、廟の入口で二人の人物がそれぞれ「シブヤー!」「ユーリー!」とこちらに手を振っている。「シブヤ」ってのは確か、ユーリのファミリーネームだったっけか? ってことは今、フルネームで呼ばれたんだな、ユーリ。

 珍しい「シブヤ」呼びをしたのは、黒眼黒髪の、おれやルフィとそう年も背格好も変わらなさそうな奴だった。この世界では貴重な黒髪が全体的に外ハネしているが、それがファッションなのか寝癖なのかは不明。ユーリと似た全身黒の服を着ていて、フレーム無しの丸い眼鏡が、いかにも頭よさそーな感じを醸し出している。

 間違いない、きっとコイツが、さっきユーリの言っていた「ムラタ」だろう。無事に此処に着いていたらしい。さっきの書状の内容と食い違っているのは気になるが、それでもとりあえずは。

「よかった……」

 思わず呟くと、隣からサンジに「ほらな」と声をかけられた。見れば、顔までもが「ほらみろ」と言わんばかりの表情を浮かべている。

「だから言ったろ?気にするだけ無駄だって」

「いや、別にお前もここまで見越してたわけじゃねェーだろ?」

あぁ?

「あ、いえ。何でもありまセン」

 何でもないからその凶悪な顔を引っ込めてくだサイ。

 まったく、本当にコイツは、優しいんだかチンピラ不良なんだかよく分からない。ラブコックの時は明らかにただのアホだけど。

 思った瞬間、隣りで舌打ちが聞こえたので、声に出していたかと一瞬ビビったが、そうじゃなかったみてェだ。サンジはもうおれを睨んではいなくて、代わりに前方を嫌そうに眺めていた。

「それにしても、ムラタって奴はともかく、隣にいる奴もまた男か。ったく、いーかげんにしてほしいよなぁ。何なんだ、この男出現率の高さは」

 ブツブツ呟くサンジに促されたわけじゃないが、改めてムラタの隣に立つ人物を眺める。

 体格はこれまたおれやルフィと大差無いが、その見た目には目を見張るモンがあった。基本的にこの国の奴らはみんなそうなんだが、「美」という言葉がスゲェ似合う。強面小動物好きなグウェンダルは渋めの美丈夫だし、おれやルフィを褒めまくるギュンターも、実際は奴の方が相当の美形だと思う(興奮していなきゃ、の話だが。)。そしてムラタの隣に立つ人物も、その例に漏れず「美少年の見本!」みたいな奴だった。

 白い肌にエメラルドグリーンの瞳、波打つ金の髪はサンジよりも明るくて蜂蜜みてェな色だ。青い軍服の胸元から出ているシャツのフリルや飾りが、いかにも高貴な感じを醸し出している。

 おれの脳裏に、いくつか前の島で見た、天使の描かれている絵画が浮かんだ。勿論ソイツは、羽も生えていなければ頭に輪っかものせてねェし、真っ裸でもないけど、イメージはすごくあの絵画に近い。

「スゲェ……ほんとにいるんだな、あんな天使みたいな奴って」

 思わず感嘆を漏らすと、女性欠乏症でイライラ継続中のサンジがくわっ!と目を見開いた。

「はぁ!?アホかテメェは!男相手に『天使』なんてドリームワードを使ってんじゃねェ!天使ってのは、コニスちゃん達みたいな空島にいたレディー達のことを言うんだよ!ドリームワードを汚す気かっ!?」

ドリームワードって何だよ……

 呆れが怒鳴られた恐怖を凌駕して、普通にツッコめた。

 うん、やっぱりサンジはただのアホだ。

 

 おれがサンジにビビったりツッコんだりと、漫才というか何というかなことをしている間に、少し先を行っていた三人と一匹は、もう庭園を抜けていた。

「よかった、村田。眞王廟にまだ着いてないって聞いてたから、心配してたんだ」

 一番に入口に着いたユーリが、安堵の表情で二人に駆け寄る。

「でも、何でヴォルフラムもいるんだ?昨日領地に帰省したばっかりだったろ?」

「フォンビーレフェルト卿は、僕をここまで送ってくれたんだ」

 応えたのは、出迎えた二人の内、ムラタの方だった。今の会話を総合すると、金髪美少年の名前は「フォンビーレフェルト卿ヴォルフラム」ってことになる。なんつー、舌を噛みそうな名前。

 おれとサンジも、ようやくみんなのいる入口に追い付く。

「送るって?」

 ユーリが首を傾げた。

「うん。僕は今朝、予定されてた眞王廟の噴水じゃなくて、何故だかビーレフェルト城の金ピカお風呂に到着したんだ」

「えっ!?金ピカ!?お前んち、洗面所だけじゃなくて風呂場まで金にしてんのか、ヴォルフラム!?

 って、驚くポイントそこかよっ!しかも洗面所が金仕様なのは既に周知!?

 思わず内心でツッコんだおれだが(さすがにまだ、この世界の奴らに面と向かってツッコミを入れるのはちょっと気が引ける。)、言ったユーリはおろか、金髪美少年ももう一人の双黒も普通に応対する。

「ぼくじゃない、あれは叔父上の趣味だ」

「っていうか渋谷、驚くポイントがズレてるよ?ここはやっぱり『えっ!?他人のお風呂を覗いちゃったの!?』でしょー。まぁ、美女どころか、『長寿の秘訣は温泉です』なおじいちゃんもいない、無人のお風呂場だったけどねー」

 いや、アンタも充分、何かがズレてるぞ?いいのか?猊下なんて呼ばれてる奴がこんなに軽くて。

 おれは段々、グランドライン帰還への不安が戻ってくるが、ルフィは暢気に「金ピカかー。ナミが喜びそうな家だなー」とか言ってる。いや、ナミは金の風呂なんてあったらすぐに売っ払って現金にすると思うぞ?

 

「とにかく、それからスグに血盟城にも眞王廟にも、僕がビーレフェルト領に着いたことを白鳩便で飛ばしたんだけど。行き違いになって、渋谷達には間に合わなかったみたいだね。ごめんね、心配させちゃって」

「いいって、無事だったんならそれで。でもよかった、ギュンター達も今頃、その手紙見てホッとしてるだろうなぁ」

「ですが、どうして猊下の到着地点が変わったんでしょう?」

 ようやく本来あるべき疑問を冷静に口にしたのは、コンラッドだった。きっと慣れてるんだろうな、ユーリ達のこういう脱線的な遣り取りに。おれ達が、ゾロとサンジが喧嘩をしてても全く心配しないようなモンか。(船を壊さないかどうかはいつも心配だけど。)

 ムラタが、コンラッドを見上げて頷く。

「うん。そのことも含めて、“彼”に訊いてみよう……彼らのことを

 「彼ら」と言いながら、ムラタがおれ達異世界海賊組に顔を向けた。瞬間、ちょうど太陽の光が奴の眼鏡に反射し、その向こうに在る瞳が一瞬見えなくなる。

 何でもない、眼鏡をかけている奴には充分有り得る光景。なのに、つい息を呑んだ。見えない眼で射抜かれたような、一瞬にして値踏みされたような、奇妙な感覚。

 だが、おれが一度瞬きをする間に、奴の顔の向きは僅かに変わり、それだけで眼鏡の反射も消えた。気の抜けるような笑顔を浮かべてこちらを見ている。さっきの「無人のお風呂場だったけどねー」と笑った時と同じ、軽ささえ感じる顔。

 ……気のせいか?

「トナカイ君も含めた、そこの四人がそうなんだろう?日本以外の異世界から来たっていうお客人は」

「何だ。おれたちのこと知ってたのか、お前?」

 尋ねたルフィの方を向こうとして、けれどおれの目は視界に入ったサンジの方に行ってしまう。

 両手はズボンのポケットに突っ込み、左足に重心をかけて立っていた。ドリームワードがどうこうと怒鳴ってた時とは明らかに違う目で見据えるのは、尋ねたルフィではなく、ムラタ。――もしかしてサンジも、何か違和感があったんだろうか。

 

 だが、おれのそんな思考はすぐに中断させられた。

「うん。渋谷達が此処に送った書状を、さっき読ませてもらったんだ。だから僕もフォンビーレフェルト卿も、大体の経緯は知ってる……って、フォンビーレフェルト卿?」

 ムラタの話の途中で、金髪美少年ことヴォルフラムが動いた。ルフィに歩み寄ると、暫くじっとその顔を覗き込む。「何だ?」と小首を傾げたルフィには応えず顔を離すと、今度はおれに向かってやってきた。

 よく見れば、あのグウェンダルほどではないがその眉間に薄っすらと皺が刻まれていて、おれは思わず及び腰になる。あぁ、いや、別にビビってるわけじゃないぜ?ただ、初対面の相手と対峙する時は、まずは距離をとって相手の全体を観察するのが基本で……って、うあぁ!来た!やっぱり怖っ!

 おれの鼻が刺さるか刺さらないかの距離で、ルフィにしたのと同じようにじっとおれを見据えたソイツは、「成る程」と呟いてようやくおれから離れた。少し胸を反らして両腕を組むと、小さく鼻を鳴らす。

 え?その見た目でそんなキャラ?

「確かにどちらも、髪を染めたり、色つき硝子を目に入れたりした偽の双黒というわけではなさそうだな。見目もまぁ、そこらの奴よりは美しく整っているようだが……ユーリの容姿には敵わないな」

「なぁ、ヴォルフ……何言ってんの?色んな意味で」

 困惑顔のユーリの反応には全くもって同意見だ。

 褒められてるんだか貶されてるんだかよく分からないが、別に自分の顔がユーリと比べてどうこうとは思っていないので、そこは問題ない。問題ないのだが、キラッキラの美少年に「美しい」だの「整ってる」だの言われたところで、ちっとも嬉しかねェ。というより、一歩間違えれば完全なるただの嫌味だ。

 だが、当事者のルフィでもおれでもなく、その発言に最も反応したのはサンジだった。ちなみにおれは、今いる海賊四人の中ではサンジが一番「美」という言葉は似合うと思う。不良モードでもメロリンモードでもない時という、四つ葉のクローバー的出現率の美形ではあるけど。

「はぁ!?お前まで汁男みてェなこと言う気か!?コイツらのどこが『美しい』んだよ!?」

 言ってることはほぼおれの気持ちを代弁してくれているが、なにぶん初対面の奴に対しても不良っぷりに容赦がない。

 言われたヴォルフラムの眉も、あっという間につり上がった。

「何なんだ突然!?汁男とはギュンターのことか!?ぼくとギュンターを一緒にするな!それに、たかがお供が、このぼくをいきなり『お前』呼ばわりとはどういうつもりだ!?」

「どのぼくだよ!?大体おれはお供じゃ……」

 

おい

 

 突如響いた、たった二文字。だがそれに、サンジもヴォルフラムも、一瞬動きを止めた。そうさせるだけの何かを持った、声。発したのは――ルフィ。

 ルフィは時々、こんな声を出す。そう大きくもないのに、辺り一帯にスッと浸透する、静かなくせに力強ささえ感じられる声。

「サンジはおれのお供なんかじゃない。サンジも、ウソップも、チョッパーも、おれの大事な仲間だ。おれは誰も、従えたりしない」

 ルフィがヴォルフラムを真っ直ぐに見据える。その足元でチョッパーが、「ルフィ……」と感極まったように呟いた。

 勿論おれも気持ちは同じで、ちょっとジーンときていた。そうだ、ルフィがこういう奴だったから、おれ達はコイツを信じてついていこうと決めたんだ。

 だが、それと同時に不安もあった。こんな風に反論なんてしたら、このプライド高そーな金髪美少年は、余計に激昂するんじゃ……。

 

 しかし、おれのそんな予想は見事に裏切られた。ヴォルフラムは、見詰めてくるルフィを負けずにじっと見詰め返すと、やがて昂った気を鎮めるように短く息を吐き出した。

「……悪かった。『お供』と言ったことは謝る」

「んん、分かってくれたんならそれでいーって!」

 数秒前の顔が嘘のように、ニカッとルフィが笑う。その反応は実にルフィらしいが、ヴォルフラムの反応は意外だった。プライドが高いのは確かなようだが、同時に自分の非を認める潔さも持っている。ただのお高くとまった美形、というわけではなさそうだ。

 おれが感心していると、サンジも罰が悪そうに小声で「……おれも、ちったぁ悪かった」と零す。それはやっぱりコイツらしい反応で、おれが思わず苦笑すると、伸びてきた脚に脹脛を蹴られた。

 

 

「まぁ、今の会話で、みんなお互いの名前も分かったことだし」

 それまで様子を見守っていたらしいムラタが、笑顔で唐突に口を開いた。さっきルフィが、おれ達それぞれの顔を見ながら名前を口にしたからだろう。

 おれ達の方も、最初のユーリ達の会話で、ムラタとヴォルフラムの名前は把握済みだ(ルフィは把握しているか怪しいが。)。

「時間がもったいないだろうから、自己紹介は無しでさっさと会いに行こうか、“彼”に」

 そう言って、ムラタが廟の中を指差した。おれのいる位置からは、入口の先は日蔭になっていて黒色の闇にしか見えない。

 「彼」というのは、話の流れからしてきっと「眞王」のことなんだろうけど。魔王であるユーリでさえ「眞王」と呼んでいるソイツを、「彼」なんて気軽に読んでいるムラタは、やっぱりどこか特殊だ。

 不意に、一瞬息を呑んださっきの光景が蘇った。光った眼鏡で隠された、黒の瞳。だけどその一方で、軽い印象を受ける語り口や笑顔も確かにあって。

 ヴォルフラムのことは少し分かった気がするが、ムラタのことは、まだそう簡単には掴めなさそうだ。

「おう!さっさとその偉い王様に会って、そんで朝飯食うぞー!!」

 ……まぁ、ルフィのこんな能天気っぷりを見てると、そんな細かいこと気にしてる自分が馬鹿らしくなってくるけどな。

 

 本当、色んな意味で、やっぱりルフィは船長だ。

 

 

 

 

 

お題:「はちゃめちゃギャグ(ワンピinまるマ)」

あとがき

 というわけで、ウソップ視点でした。彼視点だと、文章全体がちょこっと大人しくなるような気がします。えぇ、ちょこっとだけ。(笑)まだ暫く、ウソップ視点が続きます。

 登場人数が多いと、どうしてもキャラを均等に描写できないので残念です。今回は特に、チョッパーとコンラッドが犠牲に……申し訳ない。

 そしてまるマチームでは、ヴォルフラムの名がようやく登場(村田は名前だけちょこちょこ出ていましたが。)。まるマをご存じない方には、新登場キャラがどんどん増えてしまって、すみません〜。

 

daikenjya.gif←眼鏡の猊下・村田

wolflam.gif←プライド高そな金髪美少年・ヴォルフラム

※チビキャラアイコン配布元:「GREEN NOTE管理人:えびお様」様

 

 

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