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……あぁ。何でこいつらって、戦闘時にはめちゃくちゃ頼れるのに、普段はこうもダメなんだろう。 Grope your way (8) Directions:真実を見極めよ。 先導するムラタやユーリに続き、おれ達も眞王廟(しんおうびょう)へと足を踏み入れた。 この眞王廟、建物全体の形としては八角形なんだが、スケッチ好きのおれとしては、六角形の鉛筆を真上から見た図を想像した方が分かりやすい気がする。 鉛筆の芯の部分がポッカリ空いていて、そこが噴水のある中庭。吹き抜けになっているため、上空から太陽の光が降り注いできて、入口付近の暗さが嘘みてぇに内部は明るかった。 その中庭をグルリと取り囲むようにして回廊があり、そこから更に鉛筆の木の部分に向かって、各部屋へと繋がる廊下が放射状にいくつも伸びている。 要するに、鉛筆の芯の部分には中庭と噴水、木の部分には廊下や部屋や入り口があるってわけだ。 ……うん、まぁ、分かるようで分からない説明になってるのはおれだって自覚してる。けど勘弁してもらいたい。何しろおれは今現在、とてもじゃないがじっくり説明を考えられるような状況じゃねぇんだ。それは何故か?――答え。眞王廟に入った途端、サンジのテンションが限りなく直角に近い勢いで急上昇したから。 それもそのはず、眞王廟ってのは、特例を除いては基本的に男子禁制の場所らしい。そのため、そこに仕えている兵士も巫女さんも、みんな若い女。 こんな場所、これまで傍から見ても分かるぐらいに女性欠乏症で苛立っていたサンジにとってはパラダイスなんだろう。数歩進むごとに、通路に控える女性兵士や様子を窺う巫女さん達に次々と声をかけようとするもんだから、おれとチョッパーはその暴走を抑えるのに必死だった。 「おい、サンジ!さっさと眞王に会いに行くんだろ!?そんなことしてる暇ねーって!」 恐ろしいまでの敏感さで巫女さんの姿を見つけて別方向へと駆け出そうとするサンジの後ろ襟を、おれはガッチリと掴む。あぁ、我ながらなんて素晴らしい瞬発力。これまでサンジのメロリン行動に散々振り回されてきた成果だな。ちっとも有難くねぇ成果だけど。 だが、メロリンモードのスイッチがオンになっちまってるコイツは、おれの声なんて耳に入ってねェらしい。巫女さんを称える鳥肌の立つような臭いポエムを延々と口にしている。この尋常でない褒めっぷりは、汁噴きギュンターといい勝負だな。 頭の隅でそんな現実逃避的なことを思いながらも、おれは同じく足元でサンジのズボンにしがみついているチョッパーに一縷の望みをかけてみる。 「なぁ、チョッパー!コイツを何とかする薬とか無ェのか!?」 この際、ちょっと怪しげだったり眠っちゃったりするのでもいいから、とにかく一旦この暴走眉毛君を大人しくさせる方法は無いものか。 だが、チョッパーはおれの言った「何とかする」をもっと壮大な意味に捉えたらしい。 「ごめん!おれまだゾロのための『ダメに効く薬』も完成してねェんだ!サンジのこの症状に効く薬はまだまだ先!」 「……『ダメ』って?」 「方向音痴っ!」 「あぁ……」 チョッパーの奴、そんなものまで治療しようと努力してたのか。ちくしょう、なんて健気なんだ。 だが、チョッパーには悪いが、ゾロのあの奇跡的な方向音痴もサンジのこの二重人格的メロリン癖も、薬ぐらいじゃ一生完治しない気がする。 「なぁルフィ!お前もちょっとはサンジを止めるの手伝……って、お前までどこ行ってんだよっ!?」 どうせ、「サンジってこんなもん」と慣れた様子で傍観しているんだろうルフィに加勢させようと後ろを振り向けば、そこに姿は無く。遥か先の廊下を独りで勝手にズンズンと進んでいた。 そうだった、今のルフィは腹の減り具合がマックスだった。大方、見慣れたサンジの奇行をわざわざ止めるよりも、さっさと眞王との話を済ませて食事にありつきたいと思ってるんだろう。 動機はどうあれ、今の状況から言えばそれは決して悪い考え方じゃねぇんだが、残念なことにルフィも自分がなかなかの方向音痴だってことに気付けてねぇ。本能のままに進んだのだろうそれは、やはり間違った道らしく、「そっちじゃなくてこっち!」と慌てたようにユーリがその背を追いかけていくのが見えた。王様にそんなことさせて、ホントすみまセン。 ちなみに護衛であるはずのコンラッドは、初めこそ目の前で展開される光景に少々目を見開いていたものの、すぐに面白そうに傍観し始めた。“厄介者の対処は慣れた者に任せよう”精神なのかもしれない。ホント、人生を無駄なくスマートに生きてそうだよな、コンラッドって。 でもまぁある意味では、サンジもルフィも実害は無いと判断されたってこと……か?サンジのメロリン行動も、鬱陶しいであろうことは確実だが、さすがに初対面の女にいきなり手を出すようなマネはしないしな。もしそれらのことを一瞬で見抜いたんだとしたら、やっぱりコンラッドは凄腕の護衛なんだろうと思う。 ……あぁ、これで「それはクマる」の件が無けりゃ、彼への印象は最高だったのに。 「なぁっ、ウソップ!」 「ん?どうしたっ?」 サンジを正しい道へとズルズル引きずりながら、下方からの声に視線を下げる。サンジを引っ張るたびに息切れしちまうのはお互い様だ。 「何かおれ、さっきから冷たい視線、感じてるん、だけどっ!」 「あぁ、それ多分、勘違いじゃねぇと思う、ぞっ!」 チョッパーの言う通りだった。さっきからおれ達……というより主にサンジに、その視線は突き刺さっていた。発生源は、金髪美少年ことヴォルフラムのエメラルドグリーンの瞳。信じられないといわんばかりの軽蔑の眼差しだ。 だがそれも、今のこの状況を思えば当然だろう。まったく、ヴォルフラムとはまだ会ったばかりだってのに、初対面時から引き続き悪印象街道まっしぐっらだな、サンジ。 残る一人、この眞魔国(しんまこく)メンバーの中では一番掴めない男であるムラタは、そんなサンジの様子を、 「もの好きっていうか、勇気があるっていうか……」 と苦笑しながら眺めていた。どういう意味だろう?見た目からじゃ分からないが、実は巫女さんも女性兵もめちゃくちゃ怖くて、過去に酷い目にでも遭わされたんだろうか? まぁ考えてみれば、ナミやロビンやビビだって、ある意味強くて怖いもんな。カヤだって、病弱ではあったが凛とした強さも持っていたし。どこの世界でも、女ってのはその見た目に反した強かさを持っているものなのかもしれない。……とはいえ、ナミ達みてぇに度が過ぎると怖くて頭が上がんねぇけど。 暴走するサンジを、眞王がいるという地下室へ続く階段に何とか引きずりこんだ時には、おれもチョッパーもその背に疲労感を漂わせていた。 「どうした?お前ら?」 とルフィが横から暢気に覗き込んでくるが、応える気にもならない。 そういえばさっきルフィを任せてしまったがユーリは大丈夫だっただろうかと、先を行くその背を窺えば、意外にもそう疲れた様子は見られなかった。ルフィも別に戦闘時のような驚異的な移動スピードは出していなかったとはいえ、それでも素直にスゲェと思う。噂の早朝ランニング効果か? 階段を降りきると、黒く磨きあげられた廊下に出た。両脇には扉がいくつか並んでいて、突き当たりにはおれの身長の数倍は確実にあるだろう巨大な扉が一つ。うん、おそらくあれが眞王がいるっていう部屋だな。 「この辺りは誰もいねぇんだな……」 廊下を眺めたサンジが呟く。 確かにそれはおれも思ったし、サンジもただ単に見たままの感想を口にしただけなのかもしれないが……どうも女性欠乏症故の発言のように聞こえちまうのは、別におれの根性がひね曲がってるからとかじゃないよな?さっきサンジに散々苦労させられたことを思えば寧ろ、百人が百人頷く現象だよな? サンジの発言にチラリと視線を向けたコンラッドがおれと同じように思ったのかどうかはもちろん不明だが、「あぁ」と頷くその顔は普段となんら変わりなかった。ほんとに出来た奴だなぁ、アンタ。 「確かに、この辺りには兵士も巫女も置いていない。畏れ多くておいそれとは傍近くに寄れないという彼女達の意見もあるが、眞王陛下ご自身も、あまり周りに人を置きたがらないんだ」 「秘密の計画を立てるのが大好きだからねぇ、彼は」 「やれやれ」とばかりに肩を竦めながら続けたのはムラタだ。 「とはいえ、近からず遠からずな場所にはちゃーんと女の子達を侍らせてるんだから、抜け目がないっていうか、やりたい放題っていうか……。まぁ、ちょっとやそっとの危険は自分の力で回避できるだろうから、兵が近くにいなくても問題は無いんだろうけど」 淡々と語るムラタに、コンラッドが「猊下(げいか)……」と困ったように苦笑する。 本当、このムラタって奴は、眞王のことを困った友達の一人みたいに話すよな。ムラタって一体何者?眞王ってものすごく偉い奴なんじゃなかったっけ?っていうか、ムラタの話を聞いてるとすげぇ怪しい上に俗っぽい奴に聞こえるんだけど、眞王。ほんとに頼って大丈夫なのか? ……いやいや、国のみんなの信仰の対象にまでなってるぐらいの奴なんだ、きっと大丈夫。それに理由はどうあれ、巫女さんや女性兵をこの辺りに置いていないってのも、“メロリン生物係”のおれとチョッパーにしてみれば有難いことじゃねぇか。うんうん、ポジティブに考えろ、ポジティブに! 再び膨れ上がって主張してくる不安をおれが必死になって押しやっていると、不意にギィ、と扉の開く音がした。顔を上げると、あと数歩というところまで迫っていた例の巨大な扉が薄く開いていて、そこから10歳ぐらいの少女が滑り出る。 「ウルリーケ」 「お待ちしておりました、陛下。そして皆さん」 ユーリに名前……だよな?を呼ばれた少女が、高くか細い声でおれ達に向かって頭を下げた。おれも慌てて返礼する。 その子は、見た目の幼さには不似合いなぐらい、落ち着いた雰囲気を纏った少女だった。そして何より目を惹くのが、自身の身長を超える長い銀の髪。当然、その毛先は床に届いて引きずっており、ぱっと見ただけだとまるで銀のヴェールを被っているようにも見える。 おれは心中で、この廟の床が綺麗であることを祈った。だってそうじゃなきゃ、あの毛先埃だらけだろ?そんなの悲惨だ、可哀想すぎる。 「彼女はウルリーケ。この廟で最高位の巫女で、言賜(げんし)巫女なんだ」 「げん、し?」 「眞王陛下からのお言葉を賜り、皆に伝えるのが私の役目です」 ユーリの説明が分からず小首を傾げたチョッパーに、少女が説明を補う。 っていうか、さっき見たあの20歳前後だろう巫女さん達の中で最高位!?こんな10歳くらいの子が!?凄いな、魔族の国の子ども。 「へぇ。じゃあ君が、おれ達に眞王からの言葉を伝えてくれるのかい?」 膝に手をやり視線を少女に合わせながら、サンジが問いかけた。女に対する自称紳士的な態度は崩さないが、さすがに子ども相手にはメロリンスイッチも入らなかったようで、おれとチョッパーはホッと息を吐く。 まぁ、もしかしたら腹の中じゃ「将来が楽しみだ」とか何とか思ってるのかもしれないが。サンジだし。 「いいえ。眞王陛下は今回、あなた方に直接お話しになりたいそうです。――さぁ、どうぞ。中でお待ちです」 言って、少女が扉を大きく開く。 歩き出すユーリ達に続き、おれ達はようやく、眞王の待つ部屋へと足を踏み入れた。 その部屋は、さっきの中庭の真下に位置しているようだった。遥か高くにある天井の硝子は噴水の底になっているらしく、そこから降り注ぐ陽光で、部屋の壁には一面、忙しなく揺らぐ水面の模様が映っている。 部屋の中央には、廊下から続く黒曜石の床が真っ直ぐに走り、その脇にはいくつもの篝火が並んでいた。とにかく静かで、神秘的というよりも此処だけ異空間のような感じだ。……まぁ、魔族相手に“神”秘的なんて表現自体、不似合いなのかもしれないが。 そして、黒曜石の道の終わりには、1人の人物が立っていた。その背後には更に三段ほどの段があり、一番上の段には変わった模様の大きな木箱――多分、膝を抱えたおれ一人ぐらいは余裕で入れるだろう――が複数鎮座している。つくづく変わった光景だ。 「来たか」 そう言って出迎えた若い男が、眞王だった。 おれはあれだけ自分が「双黒(そうこく)、双黒」と騒がれたから、てっきり眞王も双黒なのだろうと勝手に思い込んでいたんだが、その予想は見事に裏切られた。ぱっと見たその印象は、今はコンラッドと共に部屋の入口側に待機しているヴォルフラムに似ている。彼が成長して青年になったら、きっとこんな風なのだろうという感じ。瞳の色だけは彼と違い、海のような青だったが。……まぁどちらにしろ、おれやルフィみたいな双黒ってのは、マジでこの国では珍しい存在みてぇだな。 予想と違うといえば、服装もそうだった。名将だったというだけあり、体つきがそれなりにガッシリしているのは当然として、その身に纏った青と白を基調とした軍服は、偉い奴の服のわりには飾りがほとんど無かった。きっと、装飾なんて戦闘時には何かに引っかかるだけの邪魔な物だと考えているクチなんだろう。ゾロもよく、似たような理由で飾りの多い服を嫌っている。 まぁ、ゾロの奴は元々、普段から堂々と緑の腹巻きを着用するぐらいお洒落に関心がねぇんだけどな。きっとあの腹巻きを身につけているのだって、中に物を入れられるからとか刀をぶら下げやすいからとか、そんな理由なんだろう。ほんと、ゾロってつくづく歩く戦闘馬鹿の見本みたいな奴だよなぁ。 ……って、ん?話がちょっとズレたか?まぁ要するに、眞王の見た目はおれの想像とは違っていたってことだ。もっとも、さすがに軍服の上から羽織った白いファー付きの赤いマントは上等そうだったけど。おれのソゲキングマントとは大違い。(や、おれはあの安物のマントもそれなりに気に入ってるけどな。ルフィやチョッパーだって目ぇキラキラさせてくれたし。) だが、そんな服装の簡素さなんて問題にならないほどの存在感と放つオーラが眞王にはあった。とても魂を具現化しただけの存在とは思えない。……まぁ正直なところ、魂を具現化するって時点で、おれ達にはよく分からない次元の話ではあるんだけど。 「お前達の訊きたいことは分かっている」 おれ達が何か言うより先に、眞王がいきなり本題に入った。 「血盟城(けつめいじょう)からの手紙を読んだからな。大方、どうしてお前達がこの国に流されてきたのか、そして何より、元の世界へ還る術(すべ)はあるのか……そんなところだろう?」 言いながら、眞王は背後にある段差にドッカリと腰かけた。 尊大な動作で両腕を組み足も組むと、その動作には似合わない、まるで今日の天気でも話すような軽い口調で続ける。 「まず一つ目の理由についてだが。――実はな、間違えた」 は?と思わずおれは首を傾げた。端的過ぎて意味が分からない。周りも同じ気持ちだったらしく、疑問の色をそれぞれの顔に浮かべている。 その様子を見回した眞王は、面倒くさそうに溜息をつくと、もう一度繰り返した。ユーリの隣に立つムラタを指差し、少しだけ言葉を補って。 「だから、そこの賢者殿を召喚するつもりが、間違えてその男たちを呼んでしまったと言っている」 ……マ・チ・ガ・エ・テ? 「はぁー!?」 少数を除く、その場のほぼ全員が大合唱。当然だろう。何なんだ、そのウッカリ間違いみたいな展開!?そんなんでいいのか眞王!?偉くて信仰の対象にまでなってるんじゃないのか眞王!? あまりの衝撃に呆然としている間にも、眞王は泰然とした風情で説明を続ける。 「そこにいる赤ベストと長い鼻、どちらも双黒だろう?同じ場所に双黒が2人もいたから、ユーリと賢者殿かと思ってな。間違えて召喚してしまった。変わった眉毛と子ダヌキが一緒についてきてしまったのは予想外だったがな。……とまぁ、そんなところだ」 シン、と辺りに一瞬の沈黙が落ちる。 が、あまりの理不尽さに、直ぐにおれ達異世界海賊組の怒りは爆発した。 「ふざけんなぁーっ!何をアッサリ『そんなところだ』とかぬかしてやがんだテメー!?謝るとか何とかあんだろーがっ!っていうか、だったらさっさとおれ達をグランドラインに還しやがれ!!」 「そうだーっ!ウッカリ間違いとかあんまりじゃねぇかー!責任とれーっ!」 「そうだそうだー!それにおれはタヌキじゃなくてトナカイだ、このヤローっ!!」 「ちょ、ちょっと待ってよ眞王!」 さっきから黙ったままのルフィが何か言うつもりだったのかは分からないが、ルフィが何か言うよりも先に、ユーリが焦ったように声を上げた。 「『双黒が2人』って、おかしくない?おれはもう何日も前から眞魔国に来てたんだから、呼ぶのは双黒の村田1人だけだろ!?」 「忘れていた」 「は?」 「だから、お前が既に眞魔国に来ていたということを忘れていた。だから間違えた。そういうことだ」 「……」 “開いた口が塞がらない”を見事にユーリが実演してみせてくれた。 うんうん、その気持ちはよーく分かるぜ、ユーリ。というかおれ達はとっくにその地点は通過して、既に怒りモードに絶賛突入中なんだけどな。 そんなおれ達グランドライン組とは対照的に、冷静な口調でムラタが「成る程」と呟く。 「それじゃあ、今朝こっちに呼ばれる予定だった僕が、かなり遅れて、しかも予定されていた此処の噴水じゃなく、“ビ-レフェルト城無人のお風呂場”に到着したのも、その間違いが関係してるってワケ?」 「さすがは俺の大賢者、話が早い。その通りだ。間違えたことに気づいて、直ぐにお前のことも召喚しようとしたんだが、そこの4人を召喚したことで大分魔力を消費してしまっていてな。結局、ビーレフェルト領まで呼び寄せるのが限界だった。すまなかったな」 「謝る相手の順番、間違ってるよ。それと……勝手に僕を君の所有物呼ばわりしないでって、何度言わせる気?」 ムラタから容赦なく冷たい視線を投げられても、眞王は澄ました顔で軽く肩を竦めるのみ。無駄に美形なせいでその動きが妙に様になってるのが余計ムカつく。……って、何を暢気に服についた塵なんて摘まんでんだオイ!?結局おれ達に謝る素振りも無しかよ!?どんだけ自由人なんだ、アンタ!? そんな胸中ツッコミを連発させられながらも、これまでの遣り取りで全ての謎は一応解明されはした。が、当然おれたちグランドライン組は納得なんてしちゃいねぇ。 これで更に眞王が、おれ達をグランドラインに還す方法が分からないなんて言った時には、おれ達は迷わず暴動を起こしただろうが、神様……が魔族の国にいるのかは分からねぇが、おれ達を哀れに思ってくれたんだろう、さすがにそれはなかった。眞王曰く、眞王とユーリ、そしてあのちっちゃい巫女さん・ウルリーケの魔力を合わせれば、おれ達4人をグランドラインに還すことは可能らしい。ユーリとウルリーケも、その場ですぐに魔力の提供を快諾してくれた。 ならばと、すぐさまグランドラインに還してくれるようおれ達が要求したのは当然の流れだろう。……が、眞王はこれまたあっさりと拒否してきた。曰く、いちー「魔力をほとんど消費してしまったため、回復まで少し時間がかかる」、にー「ユーリ達が行き来するというニホン以外に次元を繋ぐのは不慣れなため大変で、時間がかかる」、けつろーん「どの道、スグに還すのは無理」。 「そうだな……明日中には、何とかお前達を元の世界に還せるとは思うが。とりあえずそれまでは、血盟城にでも滞在……――」 「明日だぁ!?おい、こっちには時差ってモンもあんだぞ!?」 「あぁ。当然知っている」 割り込んできたサンジの怒鳴りに怯むことも、無礼だと不機嫌になることもなく、眞王はのんびりと頷いて足を組みかえた。 余裕な態度は一向に崩さないまま、おれたち海賊4人をぐるりと見回す。 「だから、送り還すのが明日になってしまう代わりに、到着場所をお前たちの船内になるように調整してやろう。船内でも水のある場所ぐらいはあるだろう?そこに到着するようにする。どうだ?これで時差の問題は多少軽減するはずだ」 確かに、眞王の言うことも間違いじゃねぇ。おれ達はてっきり、戻る時は来た時と同じ場所――突然発生した渦に巻き込まれたあの海中――に出るものだと思っていた。だから余計、早く戻らなければと焦っていたんだ。 血盟城の階段下でもサンジに言った気がするが、おれ達がいつまで経っても海から上がってこなければ、ナミ達はおれ達が遠くへ流されたと思うだろう。さすがにナミ達が見捨てるようなマネをするとは思わないが、接近していた嵐を避けるにしろ、おれ達を探しにいくにしろ、早くしなければサニー号がその場を移動しちまう。それから同じ場所に戻ってきたところで、おれたちに残された運命は海の藻屑になるのみだ。 だが、本当に眞王の言うように船内に戻れるのなら、話は別だ。嵐や探索でどれだけ船がおれ達の落ちた場所から移動していたとしても、そう問題は無い。到着場所になるのはおそらく、アクアリウムバーの水槽か、ナミが入ろうと湯を張っていた(でも結局嵐が迫ってきて入れなかった)風呂場だろう。残る問題は、姿を消していた空白の時間についてのナミ達からの追及に、どう応えるかを考えるくらいだ。 とはいえ、元々の原因は自分のウッカリ間違いだってのに、どこまでも偉そうな眞王の態度には、おれだけじゃなくサンジやチョッパーもかなり苛立っていた。 ――なのに、ルフィは。 「いーぞ、明日ちゃんと返してくれんならそれで。この世界面白いから、もうちょっと見ていきたいしな」 「おい、ルフィ!」 ようやく喋ったかと思えば、また何を暢気な。 呆れやら怒りやら脱力やら、自分でもよく分からねェ感情のまま抗議を叫ぶと、ルフィはいつもの顔で「ししし!」と笑っておれを見る。 「大丈夫だって!明日おれ達をサニー号に還してくれるってのは本当だから。嘘ついてねェよ、コイツ」 「……『は』?」 思わず訊き返していた。 明日還してくれるの“は”、本当。 じゃあ、どこか別のところにはあるってのか?――嘘が。 ずっと黙っていたルフィは、眞王の言葉から何を見出したっていうんだ? だが、おれがそれをルフィに問い質す前に、眞王が満足そうに笑い。 「では、万事解決だな」 それで、おれたちの眞王との面会は終わってしまった。 |
お題:「はちゃめちゃギャグ(ワンピinまるマ)」 |
かなり久しぶりの更新です。ギャクの部分がちゃんと「はちゃめちゃギャグ」になっているといいのですが……。(苦笑) 今回は流れ上仕方が無いとはいえ、くどい説明文が多くてすみません。ここまで辛抱強くお付き合いくださった貴方さま、有難うございます。 おそらく「?」と疑問に思う箇所がいくつかあるかと思いますが、できればその状態のまま(9)の話へ進んでみてくださいませ。 ※お知らせ※ 一応これまでの文中でも、まるマのキャラの容姿は極力説明するように心がけてはいるのですが、ご存知ない方がよりまるマのキャラをイメージしやすいように、2009年12月より、その話に初登場したまるマキャラのチビキャラアイコンをあとがきに載せることにしました。 以前までの話で追加したのは、(3)・(4)・(7)。もしご覧になっていない方がいらっしゃいましたら、ぜひチェックしてみてください。読む際によりキャラクターをイメージしやすく(読みやすく)なるかと思います。
※見た目少女な偉い巫女・ウルリーケは、アイコン自体見つかりませんでした。こちらも残念…。 ※チビキャラアイコン配布元:「GREEN NOTE(管理人:えびお様)」様 |